灰色の本

アニメ他の創作作品の感想とか。更新がある日は、22:00に予約投稿します。

MENU

『デリシャスパーティ♡プリキュア』第15話「ドキドキ! ここね、初めてのピクニック!」:感想

『デリシャスパーティ♡プリキュア』第15話「ドキドキ! ここね、初めてのピクニック!」の感想です。

ここねの個性の活かし方は上手いのですが、全体的にはちょっとばらばらっとした内容かなと感じました。

 

 

■「みんなで食べると嬉しい」と「一人で食べても嬉しい」

今回の展開にはびっくりしました。

「料理はみんなで食べることが美味しい、嬉しい」という考えを持ったここねに対して、「一人で食べても美味しい、嬉しい」という考えの轟さんが登場し、真っ向に絡んでいったからです。

 

ここねの思考である「食事はみんなで食べることが嬉しい」。

これは、一般的にはとても良い考え方で、裏返せば酷く否定しづらい考え方です。ここねのテーマとして、「みんなで食べる」を信奉し肯定し続けても物語は十分作り続けられるポテンシャルがあったと思います。なんなら、創作としてはそのほうが『安牌』でした。そのほうが誰にとっても否定しづらい、叩かれづらいテーマですからね。

 

しかし『デリシャスパーティ♡プリキュア』はそんな無難で保守的な場所に留まることを選びませんでした。

わざわざゆいの回でもらんの回でもなく「みんなで食べる」を良いことだと考えるここねの回を使って、「一人で食べる、一人でも美味しい」という自然体で生きている人(運転手さん=轟さん)の話を語りました。

轟さんを『教える側』として描き、「一人で食べる、一人でも美味しい」という考え方をここねの空回りに対するある種の『別解』として示しました。どちらが正しいではなく、場合によってはそちらが正しい(有用である)こともあるというテイストで語りました。

「一人で食べる、一人でも美味しい」という考え方をただのセリフではなく、尺は短いながらも轟さんのエピソードとしてきちんと整えて、ここねの空回りエピソードと対峙させました。そのことにより、下記のセリフを引き出しました。

>大切なのは自分自身が食べることを楽しめているかどうかです。

>もし楽しみ方が分からなくなったときは、じっくり一人で食べると、きっとお料理が教えてくれますよ。

これによって「みんなで食べる」ではない「一人で食べる」の良さ・有用さに触れただけにとどまらず、「みんなで食べる」も「一人で食べる」も根本的には一緒のことであるのだ……ということにも触れてきたような気がします。つまり、人数が本質ではなく、『楽しい』が本質なのだということになると思います。

 

この語り口には驚きました。2クールに入っていると言えど、まだまだ気分的には序盤なのにこんな話をするとは。ここから残りの尺で素直に発展させていくと想像すると、ここねの物語のテーマは「食事はみんなで食べることが嬉しい」には留まりません。最終的にはより深掘りされたところに到達せざるを得ないのですから。

 

このタイミングでこの話をやったことで、ここねの今後のテーマが見えなくなりました。「一人でも美味しい」自体がここねのテーマになるとは思えませんが、さて、今回の話を受けてここねの物語は例えば「食事を楽しく食べるとはどういうことか?」などのより大きなテーマに深掘りされていくのでしょうか? それともこの話は今回限りの影響に留まって、結局はシンプルな「みんなで食べることが嬉しい、楽しい」というテーマを選ぶのでしょうか。

前者を期待してしまいますが、最終的に後者に帰結してもそれはそれで(個人的には残念ですが)ここねのキャラの選択がそうだったというだけで応援できると思います。今後どう転がるか。どちらであろうと、ここねの物語の顛末を見守りたいなと思いました。

 

 

■全体的な脚本はちぐはぐ気味?

さんざんベタぼめしておいてなんですが、それはそれとしてちょっと今回の脚本はちぐはぐっとしていたような……。

 

「みんなで食べる」と「一人で食べる」の取り合わせは良かったと思いますし、それをここねと、ここねに近しい人物である轟さんでやるのも良かったと思います。ただ、大雑把には『みんなで食べると緊張しちゃって』楽しく食べられなかったという話に「一人でじっくり食べてみると分からなくなった楽しさを取り戻せるかもしれませんよ」というのはズレているような気はします。素直に考えればここねが緊張癖を治すこと、もっと踏み込んで言えば「友達と一緒に食事を取ることにそんなに張り切ったり緊張したりしなくて良い」ということに心から納得することが必要なのだと思うのですが。

 

そして、轟さんがソロもぐちゃんであるということは特に話の流れに関係なかったような……? 今回の轟さんの語りかけは、ソロもぐちゃんアカウントの存在とは全く無関係に行えたと思います。轟さん=ソロもぐちゃんという事実が今後の更なる出番の前振りも兼ねているなら良いですが、使い捨てネタならちょっとしょっぱいなあと思います。

関連して、轟さんの車で寝ていたために轟さんが一人で美味しくご飯を食べているシーンを目撃したパムパム。影薄めの仕様&最終的に戦闘時にプリキュアと合流さえ出来れば自由に動ける妖精枠を使って轟さんと絡めるのは上手いなあ! ……と思って見ていたのですが、結局ソロもぐちゃんの話は本筋に関わって来ず、パムパムが車に乗っていたことや轟さんの食事風景を目撃したことも大して関わって来なかったので、「あれ?」となりました。

 

加えて、オチも「それで良いのか?」と思ってしまいました。ここねが学校のみんなと「一緒に楽しく食べる」に失敗したという始まりに対して、プリキュアメンバーという内輪で「一緒に楽しく食べる」終わり方で良いんでしょうか?

最もこれに関しては、どうにかして再び学校のみんなとの食事の場を持ったところで今のここねではまた失敗するような気がします。分かっていて先送りしているならそれで良いでしょう。

 

 

■ここねの誤りを、ここねのキャラ個性で支えて描く良描写

らんとゆいが「ソロもぐちゃん」の話に気が逸れた際のここねのセリフ。

>一人で食べ歩き?

>それより、みんなで食べるお弁当のほうが大事!

>今はポテトサラダに集中して!

ここねの個性をこういうふうに使ってくるかあ、と唸りました。

 

ここねは、明確に描かれたものだけでなく雰囲気からの類推も含みますが、下記のような特徴を持った女の子であると思います。

・ここねは食について、味がどうというよりは『みんなで食べること』を重視している。

・一生懸命であるがゆえに、視野が狭くなりがちでもある。

・素の自分への自信の弱さから、『これは一般的に言って正解(自分ではない外部が決めた客観的な正解)』だと一度思いこんだことに突撃する傾向がある。また、『正解』があると思いこみがち。

・交友関係の狭さから、人間の趣味や嗜好の多様さを単純に知らない。思い込んだ『正解』がズレていることに気づかないまま突っ走りがち。

 

ここねの今の思考は「食事はみんなで食べることこそが至高」です。明日『みんなで』食べるピクニックが待っているのですから、当然『一人で』食べている知らないアカウントの人の話なんて優先順位は下に決まっています。

なのでここねは、決して怖い声色ではなかったものの、普段の大人しい彼女からすると驚くほどの強い口調でゆいとらんを咎めました。その調子は、ゆいとらんが思わず「はひ!」と慌てて返事をしたほどです。

 

このシーンのここねは、間違った断定に囚われている子です。

「今はポテトサラダに集中して」という意見自体は正しくても、らしからぬ口調の強さ、その言葉尻に含まれている「一人の食事<<<みんなの食事」という意識は誤ったものだ……という演出意図は明確です。

しかし、「誤っているここね」という演出意図が明確なのに、今までに描写されたキャラ性に支えられているおかげで「ここねは悪い子」には見えませんでしたし、逆に言えば「悪い子」には見えないのに「誤っている」ことは明確に演出として伝わってくるのでバランスが上手いなあ……と舌を巻きました。『デリシャスパーティ♡プリキュア』はキャラを悪者にしないバランス感覚がずっと上手いと思います。

 

 

■ホットドッグがあまり「こだわってる」ように見えない

轟さんの「食をおろそかにしていた時期があった→見た目にもこだわったホットドッグ屋の料理で食の大切さを思い出した」という流れはシンプルながら共感しやすいものだと思ったのですが、その割にはその料理(ホットドッグ)がそこまで見た目にこだわっているようには……うーん。

いや、実際にあれが出てきたら「ちょっと凝ってるな~」ぐらいは感じるかもしれないんですが、アニメで見せられるとそこまで感じないというか……。記号的でも良いからもうちょっと「見た目にこだわってる」ことが分かりやすいデザインでも良かったんじゃ……。

 

ていうか、ホットドッグ。ホットドッグなあ。

ここねの担当回だからパン、というのは分かるんですが、「見た目にこだわった」「この料理を見たおかげで食を楽しむことを思い出した」っていうなら、もうちょっとだけフォトジェニックな感じの料理でも……良かったんじゃあないかなあ。話の流れ的に『映え』過ぎてもちょっと違うし、フォトジェニック全振りスイーツじゃなくて『主食』というチョイスなのは正しいとも思うんですが。うーん。

 

 

■「思い出が消える」の設定が不発気味

ナルシストルーにレシピッピが奪われることで食の「思い出」が消える、という設定は今のところすっきりしない描き方であるような気がします。

 

今回の轟さんの話はあまり「思い出」っぽい内容だとは感じられませんでした。

轟さんにとってはホットドッグは転換点だったかもしれませんが、それ自体が「大切な思い出」と言われるとなんか疑問符が浮かぶんですよ。それよりは「その日から料理を楽しんで食べるように心掛けています。そういって楽しく食べている日々の何気ない積み重ねも大事な思い出なんですよ」という持っていき方のほうが納得できたかもしれません。

 

あと、消される「思い出」の方向性が毎回ばらばらである気がするのもピンと来ない原因の一つかと思います。

「思い出」というもの自体が方向性がばらばらでもおかしくないものではあるので、あげつらうほどのことではないのかもしれません。が、創作として見せられるとやっぱちと気になりますかね、個人的には。

 

 

■「食を楽しむ」に否定的なナルシストルーの態度

ナルシストルーは一貫して「食を楽しむ」「食の楽しい思い出、良い思い出」には「虫唾が走る!」という態度なんですよね。このことについては、個人的には更なる深掘りを期待しています。

 

言ってしまえば、ナルシストルーがなんらかの理由で『食を真っ直ぐには楽しめない人物』であったとしても、『デリシャスパーティ♡プリキュア』という作品には否定してほしくないなあ……と思っています。まあね、基本テーマに真っ向から歯向かうことになりかねない話なので、必ずやってくれとは言いませんが。

というか、そんな話をするなら、ナルシストルーがこんな序盤幹部ではなくてラスボスになっちゃいかねないんですよね。基本テーマと正反対すぎて。

 

ちなみに。ナルシストルーは今回も去り際に「やれやれ、美味しいコーヒー飲み損ねた」と言っているので、食事を全く楽しまない(楽しめない)人物というわけではないのは既に描かれています。ナルシストだから「自分が楽しむのは良い」けど「他人が楽しむのはムカつく」のかな。

 

 

 

■雑な扱いの拓海=ブラックペッパーがコミカルでgood

序盤、ゆい達が自分を褒める話題をしていると誤解して聞き耳を立ててしまう拓海には笑いました。拓海は「ゆいを守りたい」がもちろん一番の目的なのでしょうが、「ついでにカッコ良いともちょっと思ってもらいたい(主目的ではないがそう思ってもらえたら嬉しい)」ともやっぱり思っているんですね。等身大で可愛らしいです。メインのプリキュアの女の子たちがなんだかだ恋愛と無縁な立ち位置にいるのに対し、拓海だけがラブコメの世界観にいるのも面白いですね。

 

そんな、「格好良いと思ってほしい」と思ってそうな拓海=ブラックペッパーなのに、プリキュアメンバーからはいきなり「ブラペ」呼びされていて笑ってしまいました。プリキュア達からの扱いは残念ながらかなり雑です。ゆいも「また会えると良いね~」と言ってこそいるものの、完全に平常心、脈ゼロです。

 

まあ、プリキュア達はブラックペッパーがいなくても今までちゃんと戦えていましたもんね。『美少女戦士セーラームーン』で、変身したばかりで一人でぴいぴい泣きながら戦っていたセーラームーンがタキシード仮面に助けられて惚れてしまったのとは状況が全く違うので、仕方ないでしょう。ドンマイ拓海。

 

ついでですが、らんの「ブラペ」呼びを聞いて「ブラペ!?」と愕然としているマリーの表情がなんか可愛かったです。他三人がブラックペッパーのこともブラペ呼びのこともなんとも思っていないために普通の表情をしているので余計面白いです。

 

 

■そのほか

・ブンドルブンドルー! の掛け声に、ナルシストルーから待ったが入りました。ポーズがダサいって……それツッコんで良いところだったんか(笑)。ポーズは今さら変えられないと言いつつも、ツッコミを気にして小声で小さく「ブンドル、ブンドルー」して考えているセクレトルーが可愛かったです。

何が笑えるってこのシーン、ほんとにただの骨休みシーンで、話に全く関係ないんですよね(笑)。

 

・学校のみんなとのピクニックシーン。いきなり「踊ろう」と言い始めて完全に滑るここねがいたたまれなくて、見ていて心底辛かったです……。

 

・細かいことですが、轟さんが「忙しくて食をおろそかにしていた時期があった」というのにしみじみしてしまいました。シンプルな説明なんだけどなんか生々しい。

 

・敵が周囲の岩? を吸い込んでコーヒーを作っているときのキュアヤムヤムのセリフ。

ふひぃ~、コーヒーできてる~!

コーヒー作ってる敵もシュールだし、それをそのまま口に出すヤムヤムもシュール(笑)。『デリシャスパーティ♡プリキュア』は毎回、敵のデザイン(モチーフ元の調理器具)に合わせて変な技・攻撃パターンを作ってきていて、コミカルで良いなあと思います。

 

・単独ミキサー技ってまだ出番が有ったんですね。三人全員ミキサー技が登場したのでもうお役御免なのかと勝手に思っていました。確かに今回の敵がいつもより強いとも何とも言われてませんでしたし、そのへんは回の担当キャラに合わせるなどして適当にやるんですかね。