『デジモンゴーストゲーム』第23話「ウメク蟲」:感想①
『デジモンゴーストゲーム』第23話「ウメク蟲」の感想①です。
今回は素直に出来が良くて面白かったんですが、これまでの出来が足を引っ張る。
長くなったので①②に分割しています。
■展開にメリハリがあり出来事もダイナミックな良回
不気味さ、暴走するパートナー、対パートナー戦という燃える展開、怪異の原因は実は被害者側であるというどんでん返し、終盤で畳みかけるようにスケールを広げて宇宙まで話を持っていく勢いの良さ。視聴中は複雑に見えていても視聴後からすると実はロジックが結構すっきりしているミステリ要素の塩梅の上手さ。これらを1話でまとめるテンポの良さとメリハリの利いたストーリーテリング。
非常に良かったです。一部の要素だけを見るなら、より高得点な他の回があるかもしれません。でも、全体的にこんなに高水準だった回はここまで無かったと思います。決して尖っていないけど、全方位が手堅く高品質で、非常に見やすい回でした。
蟲化して襲い掛かってくるガンマモン達は不気味かつ苦しげで恐ろしいですし、暴走するパートナーを救うためにそのパートナーを相手取って人間メンバーが戦う展開はシンプルに熱いです。
また、展開自体も無理がありません。引っかかるところがあんまりなくて滑らかに進んでいくのでテンポが良いです。
モルフォモン(の鱗粉)が原因→モルフォモンは人間に捕まってSOS信号を出している、という展開も、怪異の犯人が分かったと思ったらいきなり加害と被害の構図が入れ替わる展開です。今までは『デジモン側が(悪意がない場合や仕方なくやっていた場合もあれど)故意に何かやっている』パターンが多かったので、不意打ちで驚きました。
更にはそこから『赤い月』→『空を覆うほどの赤い鱗粉』→『電波を使って人工衛星から鱗粉=SOS信号を撒いている』と突然スケールが巨大になって宇宙まで飛んでいきます。20分しかないアニメ1話で畳みかけるような怒涛の展開で、とても良かったです。
ヒロが発想力・機転で「人工衛星だ!」と看破した後、先輩が「月の方角に一番近いのは、少し前に運用が終了した周回衛星RMO3だ! 1日1回夜に日本の上空を通過する!」が知識面で爆速フォローに入るのも、非常に良かったです。話が早いというだけでなく、ヒロと先輩の頭の良さの違いをきちんと住み分けさせていて描くことができていました。
ただし、詳しくは各項目で記述しますが、『これまでまともに描写を積み上げていない』または『今までの悪い描写が重なって嫌な印象を受ける』シーンが多々あったと感じました。今回の話はかなり良いほうなんです。ですが過去回に足を引っ張られていることが浮き彫りになって逆に「あーあ……」とため息をついてしまった回でもあります。
■かさかさと付け回す蟲化パートナーの描写が良
ホラー描写も今回は上々でした。今までの回で最高とは言いませんが、それでも過去回の中で結構良いセンいってたんじゃないかな。
蟲化したパートナーが謎の存在として暗闇の中でかさかさ蠢いているのも不気味で良かったですし、特にジェリーモンはいつもの可愛らしい声で「きちちち……」と笑っているのがより不気味でした。
苦しんで発狂する姿を丁寧に映したガンマモン、正気と発狂のはざまで揺さぶられてルリに逃げろと言いながら巨体で襲い掛かってくるアンゴラモンの描写も見事だったと思います。
パートナーの人間達が蟲化したパートナーデジモン達を探し回るあいだ、かなり近くに潜伏して見張っていて、あの恐ろしい目でぎろりと見ているのも恐ろしかったです。
最終盤、ゆらりと空中から現れてどすどすと迫ってくるアンゴラモン、地中からぬるりと現れてカサカサと高速で迫ってくるジェリーモンもそれぞれの怖さがあって良かったです。同じ蟲化発狂暴走状態でも、キャラに合わせた描写ができていました。
■思い合うルリ&アンゴラモン
今回トップで良かったのはルリ&アンゴラモン組だったと思います。
アンゴラモンがルリを守ろうとするのはいつものことですが、発狂を抑え込んで理性を取り戻すたびにルリに「逃げろ」と言ってくれる。アンゴラモンの強い意志を感じられ、本来は頼りがいがあり信頼がおけるキャラであることがあらためて強く伝わります。その意志を侵す今回の怪異の恐ろしさも共に伝わってきます。
また、「アンゴラモン、すごく苦しそうだった……」とヒロ達に伝えるルリの表情と声のなんと悲しそうなことか。「絶対、元に戻してあげるから!」とアンゴラモンに相対してホッケースティック(ですよね?)を構える、悲痛ささえ感じられる彼女の表情と声のなんと勇ましくてパートナー思いであることか。
最終盤、元に戻ったアンゴラモンとルリのシーン。
恐らくはルリを襲ってしまったことを謝ろうとしたアンゴラモンの言葉を遮って、アンゴラモンに抱き着くルリ。
>「ありがとう! 守ろうとしてくれて」
>「ありがとう。信じてくれて」
目に涙を浮かべながらお礼を言うルリと、もう必要がない野暮な謝罪を引っ込めて、信頼してくれていたことへのお礼を述べるアンゴラモン。二人の心が通じ合っていることがよく分かり、しみじみと感動するシーンです。
ルリとアンゴラモン。お互いを思い合う二人の温かい心と絆がよく伝わってくる回でした。
惜しむらくは、「ルリとアンゴラモン、そんなに仲良かったの?」というのが今までの回から分からないことです。
な、なんかさあ! 第11話「カマイタチ」のときも思ったんだけどさあ! 『ルリとアンゴラモンはとっても仲が良いんです』を前提に話をするの、やめてくれないかなあ! 『ルリとアンゴラモンはまたひとつ仲良くなりました』を先に見せてくれないかなあ! 「え、いつの間にそんなに仲良くなったんだっけ……?」って引いちゃうんだよなあ! しみじみと感動するシーンってさっき書いたけど、素直に感動できないんだよなあ!
あと、第3話のルリ&アンゴラモン加入回でルリは守ってくれたアンゴラモンにお礼言わんかったよねっていうのを未だに覚えてるので、「あールリお前、お礼言えるようになったんかい」って思っちゃったのも感動を邪魔しました!
今回の話が悪いんじゃない。そろそろ2クールも終わるような話数なのに、未だにルリ&アンゴラモン組の仲の良さ(あとヒロ&ガンマモン組の仲の良さも)を描けていないのが悪い。常日頃から描写をやってないのが悪いんです。
■チョコのことしか考えてないガンマモンがいいかげん嫌い
もう俺ガンマモン嫌いです。今回第23話の話というより作品全体の話になるので別記事にします。
だってもうガンマモン、チョコのことしか言わない。チョコの話をするたびに好感度がさがる。ガンマモン嫌いです。
■ようやく出番が来たウェズンガンマモン
ガンマモンというキャラはもう嫌いですが、ようやくまともな出番が来たウェズンガンマモンは良かったです。
ウェズンガンマモンって、意外に機動力があって走り回れるデジモンではあるんですが、やっぱり最終的には火力大砲として活きる形態ってことなんですね。大技『アルビオン』で地上から宇宙空間の人工衛星まで攻撃を届かせ、一撃で爆破したシーンはお見事でした。今回は脚本がダイナミック&爽快だったので、脚本に恵まれましたね。
■犯罪カウントは地味に増加。だが情状酌量はできる
今回の犯罪? 人工衛星爆破です。ド派手ですね。大損害ですね。運用停止してるからって壊して良いものではないです。発生したスペースデブリが地球に落下してくるかもしれないし、宇宙空間で他の人工衛星にぶつかって玉突き事故が起こる可能性もあります。やっていいかどうかっていうと、駄目です。
ただし今回は、『創作としては許せる』部類の犯罪ではありました。
即座に破壊しないと、人間世界側に出てきているデジモン達が一斉発狂して手が付けられない大事件になるところだったからです。当然、被害者も大量に発生したはずです。デジモン達がどのくらいの規模で人間世界に来ているかよく分からないので被害者数は読めませんが、特性も弱点も分からない未知の生物に人類はそう簡単に立ち向かえないでしょうから、発狂したデジモン達の数の数倍~数十倍は軽く被害者が出ると見て間違いないでしょう。
明らかに&即時に発生する発狂デジモン被害と、もしかしたら発生しないかもしれないスペースデブリ被害(+確定で発生するどこかの誰かのお財布の巨額の損失)。
それなら、人工衛星を破壊してでも発狂デジモン被害のほうを防ぐという判断はおかしくないのではないでしょうか。人工衛星の責任者に相談すべきだった? そんな悠長なことをしている時間はありませんでした。子供のヒロ達が「このままだとデジモンが暴走してなんちゃら」なんて言えば押し問答になる……という以前に、責任者を探して連絡する時間すらなかったのです。
今回の犯罪は、創作としては目をつぶれる事例でした。
・ヒロ達が犯罪行為で対処しなかった場合に大規模な被害が発生することが明確である。
・人工衛星RMO3が鱗粉をバラまいていることはきちんと特定できていた。
・誰か大人(責任者なり権力者なり、あるいは身近な頼れる大人なり)に相談する時間はなかった。
・他に方法がなかった。
・児童向けアニメという観点で言えば、手段も結果も非現実的(デジモンの大技で人工衛星をぶっ飛ばす)なので子供がマネしようがない。
・犯罪をすることを楽しそうに、肯定的に語っていない。(今回の件に関しては否定的にも語っていないが……)
以上の点から、今回の人工衛星破壊は「創作だから」で許されるタイプの犯罪だと自分は思いました。情状酌量の余地が十分にあると思いました。
何を当たり前のことを延々語ってるんだって?
いつもが創作としても許されないと感じる犯罪ばっかりだからに決まってるだろ。
『ゴーストゲーム』って、まだいまいち被害度合いが分からない段階で『トイレにこもって監視をやり過ごし、深夜の博物館に居残る(第2話)』とか『物理ピッキングしてレーシングカートを盗む(第8話)』とか、人間でもできるタイプの犯罪=ぎりぎり真似できてしまう余地がある犯罪をしてることがよくあるじゃないですか……。
相談する時間的余裕がありそうなのに「緊急事態!」の一言でカラオケ屋ハッキングした挙句に被害拡大させた(第6話)みたいなこともあったじゃないですか……。
失踪した子供について調査するために、断られているのに家に問答無用で上がり込む(第18話)なんていう「他にやりようあっただろ」なんて回もあったじゃないですか。
楽しそうにノリノリで犯罪するジェリーモンなんて、わざわざ話数を引用するのも馬鹿らしくなるぐらいいつものことじゃないですか。
いつもが犯罪的すぎるんですよ。ホップステップ犯罪フェスティバルなんですよ。犯罪をしないキャラがいないんですよ。「マナーは守らなきゃ」と言って電車の中では電話に出ない先輩でさえ回によってはノリノリで大犯罪するんですよ。
メインキャラ6人の中で犯罪してないのってアンゴラモンぐらい? でもアンゴラモンもルリの暴挙を全く止めないので完全な無罪とは言いたくありません。
いや正直、「衛星破壊、カッコよかったね~~~!!!」ときゃいきゃい喜んで済ませたいところでした。でも今までが今まですぎるんですよ。
だからどうしても、「今回はいつもの回の犯罪とは違ってちゃんと犯罪までしなきゃいけない理由が立っていて良かったね」とまで言及しないと片手落ちになるんですよ。
毎回ちゃんと、犯罪までしなきゃいけない理由をきっちり立てたうえで犯罪をしてほしい。
いや。
毎回犯罪をしないでほしい。
(※念のため。「毎回犯罪してる」は言いがかりです。実際には50%ぐらいです。第21話までの犯罪については下記の記事に一覧をまとめているので、気になる方はそちらもご参照ください。)
犯罪という意味では、クロックモンの窓ガラスぶっ壊し→突入→HDD強奪も「味方陣営でやるなよ」でしたが、まあこいつは元々害獣だしまともな倫理観を期待するタイプのキャラじゃないので良いです。良くないけど『ゴーストゲーム』では些末。