灰色の本

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『デジモンゴーストゲーム』第29話「妖花粉」:感想①

デジモンゴーストゲーム』第29話「妖花粉」の感想①です。

ダサいタイトルからの良回で逆に驚きました。制作側がまじめにやりさえすりゃあ先輩&ジェリーモンコンビは安牌ですね。まじめにやることが少ないだけで。

 

長くなったので記事を①②に分割しています。

①は先輩とジェリーモンに関連する話です。②はそれ以外の話です。

 

 

■順当、妥当な先輩回

今回の、先輩中心にまとめた大筋は下記の通りです。

 

・先輩とジェリーモンはデパートで迷子を見つける。

・迷子は先輩とアニメのヒーローの姿を重ね合わせる。

・先輩は責任感から迷子を守ろうとする。

・怪異の恐怖からカンスト→限凸した先輩は、毒を受けつつも迷子を守りながら怪異の原因の元に辿り着き、迷子が信じるアニメヒーローとして怪異に立ち向かおうとする。

・だが事故(つまずいてコケた)で限凸が解除されてしまい、素の状態の先輩は毒の影響もあって一時は力尽きてしまう。

・しかし、『諦めないこと』を思い出した先輩は、自身の考える『寮長の誇り』を唱えて復帰。思いの強さから、テスラジェリーモン→テティスモンの進化を達成する。

 

先輩の成長回として普通によく出来てて驚きました。クオリティが著しく高い、というよりはベタを外さない堅実な出来です。

 

先輩の基本的な善性が良く表れているという点でも良かったと思います。

ヒロは「普段全く断らないくせに、本当に困ってる相手でも『断ったほうがめんどくさくなさそう』なら容赦なく断る」なのに対して、先輩は「普段は怯えていて逃げがち(※ただしヒロルリに強制的に巻き込まれるので逃がしてもらえない)だが、困っている子供には何も言われなくても責任を感じて手伝う」なんですよね。

子供は別に、先輩にはっきりと頼んだわけではないんですよ。あんな危機的状況、混乱した状況です。他人の子供を助けずに放置したって、良心の呵責以外の問題はなかったと思います。が、先輩にはその良心があって、勝手に断れなくなっている。怖いことには変わりなくて、ちょっと渋る顔もしているのに、断りはしない。困っている人を見ると放っておけないんです。

 

先輩の行動は、創作上のキャラ、特に『悪人と設定されていない創作キャラ』なら当たり前の行動かもしれません。しかし、そんな『創作なら当たり前かもしれないレベルの善人』であるからこそ、先輩は純粋に応援できるキャラだと思います。

 

 

■先輩&ジェリーモンの良組み合わせが久々に活きた回

また、先輩とジェリーモンにしっかり出番がある回も久々であるように思います。

 

この二人はやはり良い組み合わせではあるんですよ。ジェリーモンは先輩に意識が向いているあいだは犯罪もせず、からかいこそ酷いものの、いじらしいところも見せてくれるキャラです。先輩も能力こそ高いものの、怖がりで基本的に逃げの体勢であるため、引っ張ってくれたり、発破をかけてくれたりする人がいたほうがバランスが良いキャラクターです。

先輩とジェリーモンは、二人がちゃんと噛み合っているあいだは、悪い部分が相殺されて見やすいのです。ただ、(キャラ設定を担当したスタッフ(仮)は分かっていたとしても)脚本スタッフがそのことを分かっていないので噛み合いをあまり考えずに雑に処理することが多いだけです。

 

今回はジェリーモンが犯罪や目に余る酷い行為をすることはなく、先輩のフォローに徹していました。また、逆に「(泣いている子供に対して、何故泣いているのかを)きちんと答えるさ!」ときつい対応をするジェリーモンを先輩が「まだ子供ですよ?」と諭すなどの『子供を庇うなどの道理が通っている場合は先輩もきちんとジェリーモンに言い返す』シーンが見られるなど、先輩とジェリーモンの二人は二人でこそバランスが取れるシーンも見受けられました。おかげで引っかかりが少なく、全体的に見やすかったです。

 

先輩とジェリーモンのコンビは単純にこういう『悪くはない』話だけ積んでいけば仲良し度を稼いでいけるんですから、大犯罪やらかした第22話「悪夢」みたいな下手に大仰なことせずに淡々とやればいいのになと思います。

なんなら、先輩&ジェリーモンは脇だけで粛々とやって、ヒロ&ガンマモン組とルリ&アンゴラモン組に尺を回してあげたほうが良いぐらいかもしれません。『1話まるまるのような尺を割くよりも、脇での細かい描写を積み重ねるだけのほうが効果的かもしれない先輩&ジェリーモン組』『キャラの深掘りが足りなさ過ぎて未だに不安定なヒロ&ガンマモン組とルリ&アンゴラモン組』という現状を見ると、(先輩&ジェリーモン好きには不満かもしれませんが)そういう判断もありなのではないかと思いました。

 

……しかし、先輩&ジェリーモンに尺を回さないと、脚本側は先輩&ジェリーモンを雑に扱い始めるんだよなあ……。そういうとこがダメだと思う。

 

 

■先輩への心配が足りないジェリーモン

それはそれとして、ジェリーモン……もうちょっと毒を受けて苦しむ先輩のことを心配してくれても良いんじゃないかなあ……。もうちょっと悲しんだり怒ったりやる気出したりしてくれて良いんですよジェリーモンさん、あんたのダーリンのピンチだろ……。

 

今回で惜しいのがね、あくまで『先輩の成長話』だということなんですよ。『先輩とジェリーモンの絆と成長の話』ではないんですよ。

今回のジェリーモンは確かに出番が多かったですし、進化もしました。しかし、一方でジェリーモン自身が精神的に成長する話ではありません。先輩との絆を特段に深めるわけでもありません。先輩の精神的成長を後押しするわけでもありません。ジェリーモンは本当に『先輩の思いの強さで』進化するだけであって、ジェリーモン自身が何かをしたわけではないのです。

 

これは、デジモンにわか(一部のシリーズを視聴しただけのそこまで熱心ではないファン)の自分から言わせると、デジモンシリーズではよくあることです。

デジモン側の精神的成長』や『人間&デジモンの絆』とは無関係に『人間の精神的成長』デジモンが進化してしまう。人間とデジモンの相棒的絆がすばらしいかのように言いながら、実際のところは人間キャラに興味の中心が偏っているのです。シリーズ的にはよくあることです(ヒロ&ガンマモンもほぼ絆無関係にその場の勢いで進化を達成するノリですしね)。だからここは、あげつらっても仕方がない箇所なのだとは思います。

 

けどなあ。今回に関しては、

・ジェリーモンが毒を受けた先輩の身体をきちんと心配する。

・毒に倒れた先輩は、ジェリーモンの声掛けで復活する(=先輩の精神的成長をジェリーモンが後押しする)。

この二つをやるだけで、ちゃんと『先輩とジェリーモンの絆と成長の話』になったと思うんですよね。味付けの問題、ただそれだけだった。最後のひとつまみの塩が足りない。せっかく大筋の出来は良かったのに、そこが残念です。

 

 

■復活するために思い出すものがおかしい

つうかさあ、先輩が復活するところのシーンさあ。

なんでヒロとルリを思い出して「君たちは……諦めないよね……!」つって復活すんの?

素直にモニョる。

 

①ヒロルリは確かに諦めないっちゃ諦めないけど、まず「諦める」「諦めない」という二択を心底突きつけられたことがある印象もないので、「諦めない」キャラである印象は特にない。先輩の他人を見る目が良心的すぎる。

 

②いや結菜ちゃんのヒーロー・ジーニアスであることを理由に復活しろよ。何のための序盤~中盤の前振りだよ。

 

先輩、結菜ちゃんを救うために復活しなさいよアンタは。「世界を救いに行ってくる」「ママは必ず見つけてあげるから」って結菜ちゃんに約束したんでしょうが。

「テスラジェリーモン様……結菜ちゃんを、頼みます……」じゃねえんですよ、自分でやりなさいよ。テスラジェリーモンも、「自分でやれし! ダーリンが自分で約束したんじゃん、ダーリンが結菜ちゃんのヒーローにならなきゃダメダメじゃん!!!」みたいなツッコミ兼ハッパかけを入れてやりなさいよ。

 

現時点で先輩がヒーローではない、ということはどうでも良いんですよ。今だけでもヒーローになりたいという志で踏ん張れ。

結菜ちゃんに「ジーニアス」と呼ばれて慕われた今回の脚本の意味は、そこに集約されるはずでしょ。

 

 

■『寮長』という肩書をかけて頑張る善人・清司郎先輩

いやーしかし、先輩の『寮長』という肩書にかける熱意が重すぎて笑う。笑うけど、先輩ほんとめっちゃ良い人。

先輩、限凸してないシラフ状態でこんなこと言うんですよ?

 

>先輩である僕が……

>戦うのをやめるわけには、いかないよね……!

>僕はヒーローじゃないし、今だって逃げ出したいけど……

>諦めない。今日は諦めないぞ……!

>僕は、寮長だ!

>みんなの笑顔を守り、どんな苦境にも屈しない!

>それが葉桜学院学生寮寮長、

>東御手洗清司郎だ――!

 

「寮長」だ、っていう大したものでもないはずの肩書きでここまで言える人、他にいる? 「みんなの笑顔を守り、どんな苦境にも屈しない」と言って、体中を汚染する毒に耐えて立ち上がれる人、他にいますか?

 

めちゃめちゃ良い人じゃないですか。責任感にあふれる善人じゃないですか。『寮長の誇り』というエゴのためじゃないかって? エゴのためでも、これだけやれたら本物の英雄でしょうよ。

しかもエゴのため誇りのためって言ったって、その誇り、『寮長』っていうだけの誇りですよ? ヒーローの誇りとかじゃないんですよ。ぶっちゃけ『寮長』だからって誰に尊敬されるわけでもないだろうに、でも『寮長』というだけで先輩は戦えるんですよ。

逆に、先輩にそこまで重い『寮長』観を植え付けて、帰国まで選択させたアニメってどんなアニメなんでしょうね。アニメオタクとして数多くのアニメに触れ、アニメに対する審美眼を持つ先輩が、そこまで深く感じ入るほどの神アニメなんでしょうね。

 

「ヒーローじゃない」。

怖がりという自覚がある先輩自身はそう言うかもしれない。

先輩が結菜ちゃんにジーニアスだと呼ばれたのは、『アカデミックバスターズ』のジーニアスというキャラにそっくりだったのは偶然かもしれない。

 

でも、彼がやったことは、紛れもなくヒーローの行為です。

先輩、貴方はヒーローです。それはきっと、今回第29話を見たすべての視聴者が保証してくれると思います。

 

 

テティスモンの進化バンクが秀逸

テスラジェリーモン→テティスモンの進化バンクも良かったですねえ。

特に最初の先輩カット→テスラジェリーモンカットのところ(テスラジェリーモンがぐるぐる横回転する前まで)のシーンはコマ送りで何度も見ちゃった。

 

・あんまり顔の美醜に興味がないので今まで記事では着目してきませんでしたが、先輩、流石に顔が良い。最初の先輩カット、一貫して顔が綺麗なのでビビります。

・開幕の先輩が指を突きつけているときの中二病じみたポーズ、顔の良さの暴力で格好良いから困る。

・突きつけた指から先輩の顔のアップ→先輩の目のアップと肉薄するダイナミックなカメラワークが天才的。無茶苦茶格好良い。先輩が一度目を閉じる絵をわざわざ入れているのもとても良い。

・大胆に顔から入り、ぐるりと回転しながら逆さの構図に落ち着くテスラジェリーモンもめっちゃ良い。最後の構図が好き。躍動的なポーズも好き。

・一旦引いてから飛び膝蹴りのような構図で再度画面に迫るテスラジェリーモン様も超好き。

・横回転ぐるぐるも、テスラジェリーモンはもともとぐるぐる回転をよくやるキャラなのでマッチしていて好き。

・ピンクの六角の結晶がはがれるようにしてテティスモンの姿が現れるところも文句なし。

 

正直、ガンマモン系列→カノーヴァイスモンの進化バンクが個人的には(ヒロ側とガンマモン側のどちらも)ガッカリとしか思えなかったので、このクオリティのものが拝めるとは思っていませんでした。惜しむらくは先輩の肌が毒で緑色に汚染されていたことですが、近いうちに健康な状態の先輩のバンクも見られることでしょう。

 

テティスモン自体は……個人的には好きなデザインではないかな。ちょっと色合いとか細部がごてごてしてるし。思ったよりムチムチだったしヌルヌルしてそうだったし。まあそこは好みの問題かなあとは思います。

口調がお嬢様口調になったのは、テスラジェリーモンのギャル風口調がインパクト強かっただけに没個性的に感じられて残念です……が、このテティスモンのキャラデザならそうなるでしょうね。納得はできます。