灰色の本

アニメ他の創作作品の感想とか。更新がある日は、22:00に予約投稿します。

MENU

『デジモンゴーストゲーム』第35話「人狼」:感想①

 『デジモンゴーストゲーム』第35話「人狼」の感想①です。

ラモールモン初進化を担える力量があったとは思えない、没個性回。ラモールモン初進化回とは思い難い、悲惨な絆の回。

 

長くなったので記事を①②に分割しています。

①は主にルリとアンゴラモンの話、②はそれ以外の話です。

 

■簡易総評

先に短く総評を言っておくと、

・初見のざっくりした印象だと「見どころが無い回。まあでも普段の『ゴーストゲーム』と比較して特に悪すぎる点もなくいつもどおりで、『ゴーストゲーム』としては他の回に埋もれる没個性的な回」。

・しかしよくよく考えてみるとラモールモンの初進化回としてはルリ&アンゴラモンの絆が悪すぎる。考えれば考えるほど悪い。

こういう感じです。

 

 

■旅行の動機が分からない

ルリが旅行に誘った。うん……。

え? それだけ? 何しに行ったの?

 

「旅行に誘った」以外の導入が全然わからないです。

第14話「座敷童」みたいに、「参加する学会が開催される旅館に怪奇現象の噂があるので、先輩がついてきてほしがった」程度の名目すら立っていません。なんでルリはみんなについてきてほしがったんですかね。ルリ自体、「親戚に誘われた」だけでなんで行こうと思ったんでしょうか。ただの親戚づきあいなら、何故そこにヒロや先輩を連れて行こうと思ったんでしょうか。そんなに四六時中積極的につるむほど仲がいいイメージはありません。

 

特に先輩が謎です。なんでルリに誘われただけで田舎に旅行に行くことになったんでしょうか。口ぶりからすると強引に連れてこられたわけではないようですし。

 

……車に乗っているときの「(ヒトオオカミが)いるかどうかはともかく、興味あるじゃない?」というルリの発言からすると、ルリはヒトオオカミ伝説を知っていてそのために自分からやってきた? んでしょうか?

でもだとしたら、

 

①ルリが興味が向いてやってきたのがたまたま祟りの百年目で、

②たまたま水無月で、

③たまたま駅前で先輩に「月夜野さん」と呼ばれて、

④たまたま通りがかりのおばあちゃん(サチばあさん)がその呼びかけを聞いて、

⑤たまたまそのサチばあさんがルリの祖母(月夜野和子)の顔を知っていたせいでルリがどうやら本物の本家筋の娘らしいとバレて、

⑥じゃあルリを生贄にしよう。

 

……って流れになったんですか? いくらなんでも状況が偶然過ぎませんか? 「ルリは生贄の運命に導かれてここへやってきたんだ。百年目の水無月である今、ルリがここへ来ようと思ったこと自体が運命なんだ」という演出がなされているならまだ納得しますが……そんな演出も見受けられません。

 

 

■普通でも何でもない、生贄の家系の女の子であるルリ

月夜野家はヒトオオカミの生贄にされる家系であった。うううううん。ルリって、制作スタッフ的には「普通の女の子」という意図なんじゃないかと思いますけど(犯罪もするし人をパシリ倒して笑ってる人非人ですが)。

 

なんでそんな、特殊な設定をつけたんでしょうか。全然普通の女の子じゃないですよね、それ。

これが「実は昔からデジモン(怪異)と人間を仲介していた巫女の家系の生まれだった! 最終戦に向けて巫女としての能力を使って立ち向かい、巫女としての運命に向き合っていく!」みたいな、じっくりと腰を据えて物語の中心として取り組むような話をするっていうならまだ分かりますよ。でもそうじゃないですよね? この回のためだけの、使い捨ての単発設定ですよね。ナニコレ?

 

 

■親に死を願われてると推測される女の子、ルリ

しかも、ルリを今回の舞台の田舎に送り出したのはそりゃ、家族……ですよね。しかも、家族当人はついていかずに、事前に何も説明せずに送り出したんですよね。

 

え? ルリを殺す気で送ってる?

 

今までルリの家族って出てきてないと思いますけど、ルリもしかして家族にめちゃくちゃ嫌われてる? 死を願われるレベルで嫌われている?

さくらさんは良いんですよ、サチばあさんに『外から来た余所者』呼ばわりされてますからね。前にヒトオオカミ事件が起きたのは百年前なのですから、あの村で暮らした時間が長くても二十年行くかどうかだと推定されるさくらさんが知らないのも無理はありません。

が、さくらさんがルリを「遊びに来ない?」と誘ったと仮定しても、その誘いを断らないし警告もしないルリの親、ルリを殺したいと思ってる?

 

ルリの家族は引っ越してから長いのでもう迷信のことを知らない(祖母の代で引っ越しているので親は知らない)……という可能性はありますが、じゃあ何故そんな知らない遠い親戚のところにルリを家族同伴ではなく、一人で送り出したのか分かりません。完全にあり得ないとは言いませんが、かなり不自然です。

それなら「ルリが死ぬことを願って何も伝えずに送り出した。ルリに詳しく聞かれたり、自分たちが生贄のターゲットになったりすることを恐れて自分たちは同伴しなかった」と邪推するほうがよっぽど筋が通ってしまうのです。

 

……殺伐としまくって流石に可哀想だから、もうひとつ別の可能性あげとこうか?

ルリが今回の旅行のことを親になんっっっっにも伝えてない可能性はある。この場合、泊まりの旅行に報告なしで行っても実質許すような放任の親、または娘に舐められきってて話を聞いてもらえない親であると推測できる。

どっちにしろ、ルリの家庭状況、カスですね……。

 

※念のため追記。家庭状況が悪い人や家庭状況が悪いキャラがダメと言っているのではありませんよ。創作として、制作スタッフが「悪い状況」であると描いている様子ではなさそうなのにルリの家庭は「悪い状況」ですよね、制作スタッフの故意ではないですよね、というところがダメだと言ってます。ダメとは直接言ってないですけどそういうとこを揶揄してます。

 

 

■ルリの、アンゴラモンの信頼を裏切るような勝手で情けない挙動

前にさあ、俺こんなこと言ったんですよね。

>なんでこの回をアンゴラモンの次の形態の初進化回に使ってやらないのかなと思いました。

>進化回がショボかったら「あーあ、親友回で進化しとけば……」って言われるぞ。というか、俺は言うぞ。

『デジモンゴーストゲーム』第26話「飢餓屋敷」:感想 - 灰色の本

あーあ、親友回で進化しとけば。

じゃなくても、せめて第31話「辻斬リ」で進化しておけば。

 

いや、酷かったと思いますよ。

だって今回のアンゴラモンさん、ルリに向かって「勇気と無謀は違うものだと思うよ」って、珍しくキレ気味なんですよ。本人は怒っていないと言っていますし、実際アンゴラモンさんは穏やかな性質なので『怒って』はいないんでしょうけど、普段ルリが何をやらかそうと放任しているアンゴラモンさんが珍しく小言を言うんですよ。珍しく、ルリの態度に不信を表明してるんですよ。

 

>「ヒトオオカミなんて来ないわよ」

>「でも、何かいる」

>「うん。凶暴な野生動物とかがいるなら、捕まえなきゃ」

>「そうだね。何かあっても僕がルリを絶対に守るよ」

このルリとアンゴラモンのやりとり、嚙み合ってるとは全く思えませんでした。噛み合う以前に、ルリが「ヒトオオカミだとしてもそれ以外の何かだとしても、とりあえず何かの脅威は確実に存在する。だからその正体を突き止めて解決する」という前提を忘れたようなセリフをしばしば吐くのです。ヒトオオカミ自体がいるかいないかなんて、このやりとりをしていた状況ではもうどうでも良くなっていますし、アンゴラモンさんもヒトオオカミを心配しているのではなくて『存在してることだけははっきりしている何かの脅威』を心配しているのです。なのに「ヒトオオカミなんて来ないわよ」なんてよく分からないことを言う。

「凶暴な野生動物とかがいるなら、捕まえなきゃ」というセリフも、ルリ本人には戦う力が無いのに、デジモンの仲間に改めてお願いするでもなく自分一人で勝手に全部決めておいて何を言ってるんだ、と思いました。

そんな流れなので、アンゴラモンさんの「そうだね。何かあっても僕がルリを絶対に守るよ」という発言も、「ルリがどんなことを言っていてもそんなことは僕にはどうでもいいからとにかく僕はルリを守る」という、ルリとのコミュニケーションを諦めた発言に聞こえました。実際、ルリは話をまともに聞いてくれないんですもの。

 

細かいんですけど、ルリが生贄としてお堂の前に出たあたりのシーンでルリが「嘘!? ヒトオオカミ!?」って言ってたのにも萎えました。「嘘!?」って、あーた……。ヒトオオカミだろうがそうでなかろうが、何か出てくるのは予想できてるでしょうが。むしろ、事態を解決したいなら何か出てきてくれて好都合でしょうが。そんなだからアンゴラモンさんに「勇気と無謀は違う」って言われちゃうんですよ。

 

で、実際にマンティコアモンが出てきたら、そりゃルリに戦闘能力はないので当然なんですけど、ルリは成すすべがなく追い詰められるわけですよ。狙われるのは分かり切ってたのに、多少逃げ回って時間を稼ぐことすらできない(カットだけ見れば逃げようとしてもいない)わけですよ。

で、追い詰められて、情けない声でアンゴラモン……」なわけですよ。

 

最低な子だなあと思いました。

アンゴラモンの心配をことごとく無視して勝手に話を進めて、勝手にピンチになって、結局(最初から分かり切ってたことですが)何もできなくて、さんざんないがしろにしたアンゴラモンに頼る。アンゴラモンの善意を良いことに、どれだけ踏みにじる気なんでしょうか。

アンゴラモンの「勇気と無謀は違うものだと思うよ」のセリフの後には、ルリの「……うん。心配してくれてるのよね」というセリフが入っていますが、ルリが本当にアンゴラモンの心配を分かっているとは到底思えません。ルリはアンゴラモンの言葉をまともに聞いていません。そのくせ、ルリ本人は「自分はアンゴラモンを大切に思っている!」と自己陶酔的に思っていそうな様子に見えます。自己愛的な子だなあと思います。

 

今回、アンゴラモンがジンバーアンゴラモンに進化したとき、ルリはどう見てもデジヴァイスを使う余裕はなさそうでした。

デジヴァイスの進化表現のとき、人間のカットや人間の生体エネルギーが充填されるカットがスキップされるのは、今回が初めてではありません。ですが、それは単に尺の問題でスキップしているだけで、人間側の意思とエネルギーでデジモンの進化をサポートしていることに変わりはないのだと思っていました。が、繰り返しますが、今回のルリはデジヴァイスを使う余裕はなかったんです。

どう見ても、今回のアンゴラモンは自分の意思だけでジンバーアンゴラモンに進化していて、ルリのサポートは全く関係なかったように見えるのです。

そこまでの流れが流れだったので、アンゴラモンはルリの意思を尊重することを諦めたんだな、と思いました。だって、ルリはアンゴラモンの意思を尊重なんかしてくれないんですから。何も話を聞いてくれないんですから。

 

そう感じてしまったので、その後のラモールモンの進化も盛り上がりません。この期に及んで「あたしもジンバーアンゴラモンも負けない!」なんざと言い始めるルリは何様だろうなと思いました。ルリの「どんなピンチもあたしたちは」というセリフを受けて「打ち破ってみせる!」と言うジンバーアンゴラモンは、単に「ルリが何を言ってようが無関係に、自分は初志貫徹してルリを守る」ぐらいの意味だろうなと感じました。だって、あんまりにルリがアンゴラモンの善意を無視して、蔑ろにしていますから。アンゴラモンはルリの意思を諦めて、自分でジンバーアンゴラモンに進化したんですから。まあ、ルリ側が勝手にやる気を出していたので、デジヴァイスを通してエネルギーの支援は受け取ったようですが。

 

 

アンゴラモンに抱き着くルリの、絵面のシュールさに困惑

進化解除したアンゴラモンの後ろからルリが抱きしめるシーン、『突然アンゴラモンの脇(というか、もはや腹or胸)からルリの腕が生えてくる』みたいな絵面でシュールでした。時々良い描写はあるものの普段からルリとアンゴラモンの絆を描けていないため、笑えないほうのシュールさでした。

もっと絆が描けていて、抱き着くシーンも手を変え品を変えほぼ毎回ぐらい描写されていて、ラモールモン初進化回みたいなシリアスが求められる回ではなくてもうちょっと緩めの回なら「ほのぼのシーン」として見守れたと思うんですけどね。

 

しかし、アンゴラモンのあの位置でルリの腕が貫通できるの、多分作画ミスじゃないんですよね。アンゴラモンの胴体はものすごく細っこくて、ほとんどが毛だということなんだと思います。でも肩の位置は見た目通りなんだろうと思います。普段は毛に邪魔されて、常に腕を斜め下に伸ばしているような状態(脇を閉めることが難しい状態)なんでしょうね。大変ですね。

……いくらそこに胴体がないからって、毛のど真ん中に背後からズボォ! って腕を突っ込んで抱きしめるルリ、深く考えるとド失礼なことやってるような気もします。

 

 

■そのほか

・Aパート中盤ぐらい、ヒトオオカミ伝説についてメインキャラが話しているときのルリのセリフ。

>あたしオバケとか幽霊は好きだけど、

この、『ゴーストゲーム』上では地味に重要となる設定を明言するのがびっくりするほど遅い。そりゃそれらしい描写はちょこちょこありましたけど。

 

・上記のシーンに続くルリの発言の、

>生贄よ!? クマやイノシシに人間差し出してどうすんのよ!

これは好きです。「迷信とか信じちゃってバッカじゃないの」という気の強さは一貫していますね。

ただ、その後のシーンを見ると、ルリが謎に意固地になって「迷信に振り回されてすごすご帰るんじゃ、なんだか負けるみたい!」と突っ張りまくるせいで話がややこしくなっているので……うーん……。あんまり褒めてもいけないところなのかもしれません。

 

・自分も怖いという感情はそりゃあるだろうけど、「このままだと月夜野さんいけにえだよ!?」とルリを心配してくれる先輩に「ひがっち! 早く帰りたいだけでしょ!」とがなりたてるルリにはドン引きです。そこまで声を荒げて怒鳴ることある? 心配してくれてるのに? しかも「お前が早く帰りたいだけ」という、罵倒に近い言い方で? いつものことながらドン引きです。

 

・なんか、そこまでのルリ&アンゴラモンの流れが最悪だったのであんまり語る気にならないのですが……。ジンバーアンゴラモン→ラモールモンの進化バンクはかなり格好良かったです。間違いなくメイン三組の完全体進化バンクの中でトップです。ルリもジンバーアンゴラモンもとんでもなく美形に描いてもらっています。「ジンバーアンゴラモン、超進化ー!」と叫ぶシーンのくるくる回転するところもしっかり格好良かったので驚きました。ていうか、カノーヴァイスモン進化バンクのくるくるが異常にダサかっただけなのでは。

ラモールモン自体はデザインが個人的に好きではないので正直どうでもいいです。ただ、こんな『理性を失った』かのようなキャラ付けにするなら、『元々は一緒に知識を追い求めていた親友が正気(理性)を失っており、理性があるがゆえに親友を殺さざるを得なかった』第26話「飢餓屋敷」はやらないほうが良かった気がします。取り合わせが悪いです。……でもまあ、そんな細かいことは『ゴーストゲーム』に期待するには高度すぎますね……。