『デジモンゴーストゲーム』第25話「紅ノ饗宴」:感想①
『デジモンゴーストゲーム』第25話「紅ノ饗宴」の感想①です。
主人公組の初進化回なのに、脚本ががさつで虚無。
長くなったので①②③に分割しています。どこがどう悪いか、という説明をしているとあっという間に字数が嵩むので困りますね……
■重要回なのに何もない
不正アクセス事件で日程は狂いましたけど、話数から見ても直前にイレギュラーなスペシャル回が入ったことから考えても、今回が「3クール目」の幕開けという意図だったはずです。
2クール末(スペシャル回は置いといて、24話)に何もやらなかったのは、1クール目もそうだったので期待してませんでした。でもクール初めにも何もやらないって、そんな。
初進化だけはしているというのが空笑いが出ます。クールの切れ目らしい展開をすべきという発想はあるのに、こんながさつで虚無な脚本を持ってくるんですか。第20話「炎ノ監獄」を持ってきたほうがよほど劇的でしたよね。盛り上げる気概が感じられません。
今回よりも不快な回はありましたし、今回よりも虚無な回もありました。
ですが、「シンプルに脚本のつながりが悪い」という意味では今回がワーストかもしれません。
■設定が繋がっていなくて杜撰
全体的に、設定が繋がっているようで繋がっていません。他の設定に差し替えてもあんまり変わらないような設定ばかりです。しかもそれらの設定について、違和感を消してなめらかな繋がりにしようとした努力の気配が感じられません。
捨て回ならともかく、クール初回で主人公組進化の重要回でこれってなんなんでしょう。杜撰です。
具体的にはこういうこと(↓)を言っています。詳細はそれぞれ後述します。
①事件内容と『ルリが』おびき寄せられたことが噛み合ってない。
→事件内容が変わっても話の本筋に影響がない。ルリがおびき寄せられて巻き込まれるなら、事件内容はなんでも良かった。
②ヴァンデモン(吸血鬼)という敵の選択とウイルスを仕込む攻撃が繋がっていない。
→敵はヴァンデモンじゃなくても良かった。
③ガンマモンにウイルスを仕込んだらパートナーであるヒロ(人間)に影響が出るという仕様が杜撰。
→ヴァンデモンが使うのはウイルスを仕込む攻撃じゃなくても良かった。
④ヒロとガンマモンの絆で進化を達成する話なのに、二人の絆の話をしてない。
→絆で進化を達成した話じゃなくても良かった。/絆で進化を達成した話にしたいなら、ちゃんと二人の絆を描く回でやるべきだった。
⑤戦闘に入るまではヒロとガンマモンは話の主役ですらない。
→ガンマモンの進化回でなくても良かった。ルリを中心にしたままアンゴラモンの進化回にしたほうが無駄がなく分かりやすい流れになる。
少なくとも、これだけの要素が『差し替え可能』だと感じました。いや、こんなに差し替え可能だったらほぼ全部じゃないですか。何も残らないです。
以下、先ほど述べた項目を一つずつ見ていきますね。
■①事件内容と『ルリが』おびき寄せられたことが噛み合ってない
今回の『事件内容』と『ルリ』の関係、気持ち悪いなあと思いました。
事件内容は、美形のヴァンデモンに女性がおびきよせられてしまって吸血鬼になるというものです。まずこの設定がちょっと気持ち悪いと思いました。今どき、『色ボケした愚かな女が、美形の男に釣られて魔の手に落ちる』展開ですか? いちいち女性たちが「あぁ……」と色ボケしたことしか考えてないような声をあげて頬を赤らめる描写付きで? スイーツやコスメ、ジュエリー、そしてそれら商品を扱う『ブランド性(超高級ブランド)』に女性が釣られるという描写も「今どきその描写かよ……」とうんざりしました。
まあ、これだけなら個人的には「ちょっと気持ち悪い」止まりでした。伝承上での吸血鬼が美しい容姿で若い女性を惑わし狙う、『そういう魔物』であるというのはその通りであるからです。
釣られてほいほいやってきそうな女性でかつインフルエンサーである女性を狙ったら結果的にそういう女性になってしまったというのも、言いたいことは分からなくはないのです(うんざりはしますが)。呼ばれていた女性たちは恐らく『スイーツやコスメ、ジュエリー』の分野でインフルエンサーをやっている女性だというのは想像ができます。もちろん、そういう趣向の女性を狙うためヴァンデモンは『スイーツやコスメ、ジュエリー』を扱うブランドを育ててきたのでしょう。
だから、気持ち悪いというのは正直そちらがメインではないのです。
『ルリは巻き込まれたけど、そのような女性とは違う』という描き方が気持ち悪いのです。
いや、なんなんですか?
「ルリは~、あくまで美形の男性じゃなくてスイーツに釣られたんです~」
「超高級ブランドもどうでもよくて(※深紅や血っぽい感じのブランドイメージだよねという発言に「苦手」と返している)~、アルファアカウントとして呼ばれたから行っただけなんです~」
っていうその描き方。
事件に巻き込まれる条件を示しておいて、その条件をわざわざ壊してくるのってなんですかね……。ルリは条件にいまいちぼんやりとしか当てはまってないのに引っかかったなら、それはもう、その巻き込まれ条件も引いては事件そのものも今回の形ではなくて良かったじゃないですか。
前から、ルリはメアリー・スー(原作メアリー)くさいと思っています。やたらなんでもできるハイスペックな『良い子』『完璧な子』なんです。制作スタッフ側が『良い子』『完璧な子』であることを望んでいることは分かるけど、実際には圧倒的に脚本力が追い付いていないタイプの『良い子』『完璧な子』なので、メアリー・スーくさいです。
彼女に勇気と行動力があることを自分は高く評価していますが、それすらメアリー・スーくさい長所設定だなあとは思います。
ルリがスイーツ好き設定で女性的可愛らしさを出すのは、スタッフ的にはアリ。
でもルリが美男子にほいほい釣られてしまうのは、スタッフ的にはナシ。今回の事件に巻き込まれる条件としてはそっちのほうが都合が良いし自然だろうとルリにそれをさせるのは絶対ナシ。ルリはそんな愚かな女の子ではない。
そういう制作スタッフの都合の良い願望をこねくり回したような『ルリという偶像』が、気持ち悪いなあと思いました。
■①' イケメンに釣られる設定、要る?
てーか『他の女性被害者は男性の美形さに釣られた』って設定が無ければ良かっただけだと思いますよ。ふつーに「商品に釣られた。インフルエンサーだから招待された」だけで良かったじゃないですか。
いちいち女性を無駄にぽーっとさせる描写を挟む必要ありました? ルリはぽーっとしないのに。
逆に、『ヴァンデモンは普段男性に興味がないルリですら目の前にすると強制的にぼうっとなってしまう、催眠能力の持ち主』って設定だったならここまで不快ではなかったと思います。
『十把一絡げにイケメンに見惚れて被害に遭ってしまう愚かな女たち』と『イケメンに興味がなくて正気を保っている賢くて特別なルリ』という対比構造が発生してるから気持ち悪いんです。
■①’’ 女性被害者たちの存在意義のなさ
そもそも『愚かな女たち』がいようといなかろうと、話の流れに関係ないんですよね。
ヴァンデモンに生き血を吸われて奴隷になった被害者女性たちは、他の人間を襲っていたようです。ですが、その事件が起きていることはヒロ達の行動になんら影響を及ぼしていないんです。だってその事件とは全く無関係にヒロ達は親玉(ヴァンデモン)を殴りに行きましたからね。
被害者女性がさらに他の人間を襲うという事件は、今回第26話においては「吸血鬼あるある・被害者も吸血鬼になって人間を襲う」を表現するぐらいの意味しかないのです。
「血を吸われて操り人形になった女性たちに襲われる」みたいな展開もないので、本当にそれだけです。女性もヴァンデモンの操り能力(生き血を吸うことで眷属にする能力)も、話のエッセンス程度にしかなっていません。
■②ヴァンデモン(吸血鬼)という敵とウイルスを仕込む攻撃が繋がっていない
吸血鬼で、ウイルス攻撃? コウモリに噛まれた描写もはっきりとはやってないのに、コウモリ経由でウイルスを仕込んだ?
……ちぐはぐだなあと思いました。いや、コウモリの噛みつき→出血、みたいな直接的な描写ができないのは察してますが……。
ヴァンデモンがウイルス種という属性だからウイルスが付与できる。あのタイミングでいつもの図鑑風画面を出したってことは、多分、そう言いたいんですよね。それってだいぶ、「ヴァンデモンというデジモンを知っている」「ウイルス種という属性区分を知っている(デジモンにそういう属性の要素があることを知っている)」人向けの描写なんですが。今まで『ゴーストゲーム』ではその属性の説明をしたことないじゃないですか。
ていうか、ウイルス種でさえあればウイルスを他のデジモンに付与できるって理解で良いんですか? どのウイルス種デジモンでもってこと? そんな凶悪な。
ヴァンデモンという強いデジモンだからなのかもしれませんが、アニメ中のあの説明の仕方だと「ウイルス種だから」ウイルスを付与できたということになります。ヴァンデモンが強いデジモンだから、またはヴァンデモンが特殊なデジモンだからというようには聞こえませんでした。
……なんでヴァンデモンが起用されたのか分かりません。
歴代の有名大物デジモンを起用したかったのは分かります。でも、ヴァンデモンの特性が本筋に活かされた様子は見えません。他の大物デジモンでも良かったような脚本です。
ヴァンデモンというキャラにしても、ホラー要素として使いやすかったはずの『吸血鬼』ネタにしても、もっと丁寧に扱って然るべきネタだったと思います。明らかに勿体ないことをしています。
■②' 操りネタはやらなくていいの?
既に述べたことと多少かぶりますが……。
話の前半で語られたのは、女性に対する操りの能力(眷属化する能力)ですよね。
それ使わなくて良かったんですか?
女性をわざわざ操ったのに、それを攻撃に使わなくても良かったんですか?
あるいは、素直に『コウモリを介して血を吸うことで、ガンマモンやジェリーモンを操った』で良かったんじゃないでしょうか。そのほうが「ああ、吸血鬼だからそういう能力でもおかしくないよね。話の前半でも直接吸血して操ってたもんね」で分かりやすかったと思います。その展開でも「二人で乗り越えようぜ!」→絆の力というご都合主義で無理やり打開するという同じ展開ができたと思います。(※ただし、パートナーデジモンの操りネタはかなり近い回である第23話「ウメク蟲」とモロ被りであるきらいはあります。)
せっかく話の前半で描いたヴァンデモンの操り能力を活かさないから、話の前半の被害女性たちの描写ごと無駄になるのです。
■③ガンマモンにウイルスを仕込んだらパートナーであるヒロ(人間)に影響が出るという仕様が杜撰
ガンマモンがウイルスを受けておかしくなるのは分かります。でも、それで人間のヒロに影響が出るのってどういうことですか? 人間が(コンピュータ)ウイルスの影響を身体に直接受けるっておかしくないですか?
サイバーな世界観らしい合理的な理屈を投げ捨てていて、突然に(駄目な意味で)ファンタジーくさいです。いや、『ゴーストゲーム』がそういうリアリティをまともに描いていた気はあまりしないのですけど。
感想中で何度か言っているんですが、『ゴーストゲーム』の人間とデジモンのコンビは「代替不可能な唯一無二のパートナー」とは言われていないんですよ。
パートナーという言葉も使われていないし、実体化は他のデジモンが相手でもできそうなフシがあるし、技の指示出しは他の子供でもできるのです。
なのに、ガンマモンがウイルスに侵されたら『ヒロに』ダメージが換算されるってなんですか? どういう理屈でルリでも先輩でもなくヒロなんですか。
ずっと設定を描き込まずにふわふわやってきたツケが出ています。
……あとこれ、つまり、第17話「極寒地獄」のパートナー入れ替え展開(=パートナーは入れ替えられる)には何の意味もなかったってことでもあるんでしょうね。
個人的にはその描写は「伏線」と受け取って高く評価していたんですけどね。描写のがさつさで、過去回に遡及して評価が下がるから困ります。
■④ヒロとガンマモンの絆で進化を達成する話なのに、二人の絆の話をしてない
ヒロとガンマモンの絆で進化を達成したという筋運びだと思われるのに、今回第26話の中でヒロとガンマモンの絆の話がありません。
いや、うん、第26話って、戦闘に入るまでそんな話じゃなかったですよね。ヒロとガンマモンの話をしてなかったですよね。うん……。
なんでガンマモンの進化回をヒロ主役かガンマモン主役、できればヒロ&ガンマモン両名主役にできなかったんでしょうか。理解に苦しみます。
■④’ ヒロとガンマモンに絆なんかある?
そもそも、ヒロとガンマモンにそこまで強い絆なんかありましたっけ。
今までの描写でそもそもそこに納得していないので、「二人で乗り越えようぜ!」って叫んだら進化できるという流れ自体が意味不明でかなりサムかったです。説得力がないです。
ヒロとガンマモンの二人に絆を感じない理由はいろいろありますが、書く元気がないので書きません。過去記事でも散発的にいろいろ書いています。
■⑤戦闘に入るまではヒロとガンマモンは話の主役ですらない
④と一緒ですね。ガンマモンの進化回なのにヒロとガンマモンが主役になってない、ということです。
逆にこれ、なんでルリ回(アンゴラモン進化回)に回さなかったんですかね。
はい、ようやく「設定が繋がっていなくて杜撰」の話が終わりました。それ以外の虚無の話は次回に続くよ。