灰色の本

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『デリシャスパーティ♡プリキュア』第10話「泣かないでレシピッピ… 誕生!ハートジューシーミキサー」:感想

『デリシャスパーティ♡プリキュア』第10話「泣かないでレシピッピ… 誕生!ハートジューシーミキサー」の感想です。

面白いけど、強化回なのに淡白な出来。

 

 

■要素の描きぶりが中途半端になってしまっている

自分は『デリシャスパーティ♡プリキュア』の脚本は基本的に「良い」と思っています。粗がない完璧な脚本とか諸手を上げて褒められるとまでは言いませんが、毎回手堅い出来で面白く見られると思っています。ずば抜けたとんがった高得点は出さないかもしれないけど、平均点と最低点が高いアニメ。そう思っています。

 

今回も面白いのは面白かったんです。けれど普段の平均点が高いので、「いやいや、『デリシャスパーティ♡プリキュア』ならもっとできたんじゃない?」と思ってしまうような、そんな回だと思いました。

 

今回の話の本筋は、表面上は「レシピッピの話と新アイテム入手」です。実際には「操りが解けそうになっているジェントルーの葛藤」のほうに比重が寄っていて、中途半端な印象を受けました。

 

プリキュア達とジェントルーの接点であるレシピッピを絡めて「プリキュアの考え」と「ジェントルーの葛藤」の両方を描こうという取り合わせは、着眼点自体は良かったと思います。

 

ただ、実際に出来上がったものを視聴した印象だと、

プリキュア達については現状維持(現状再確認)程度の話しかしていなくて薄い。

・レシピッピ達は強化アイテム生成役=今回の主役なのに、元々の設定が薄味なので濃い話をしようがない。

・ジェントルーの話はしっかり描かれているが、ジェントルーは洗脳状態にあり、彼女の本来の性格や考えではないため情報量が少ない。現状でこれ以上はあまり深掘りできない気がする。

……という感じで、どの要素もちょっと消化不良感がありました。結果的にお話が平坦で淡白に感じられました。

 

特にレシピッピは本当に設定の味付けが薄すぎるので、まずレシピッピをキーにして1話引っ張ること自体が厳しかったような気がします。真面目に話の主役にするなら「レシピッピってそもそもどういう存在なの?(ゆいが「『ご飯は笑顔』みたいな存在」と自己解釈を述べるのではなくて、実際にどういう生命体なのかとか……)」ということを尺を使って語ったほうが良かった気がします。

 

ああでも、レシピッピの設定が『薄い』こと、レシピッピが『舞台装置に徹している』ことは個人的には評価してるんだよなあ。レシピッピの設定を濃くされても脚本上の使い勝手が悪くなるだけで誰も得しない気がする。

 

難しいなあ。「なんか中途半端で薄いなあ」とは思うんですけど、具体的な改善法(どういう展開だったら自分が満足したのか)は思いつかないタイプの回ですね。

 

 

■レシピッピの設定が薄い利点と弊害

レシピッピ=『ご飯は笑顔』、みたいな存在。

ゆいが今回の話で唱えた解釈です。ローズマリーも同意していたので、確かに本質を突いている面はあるのでしょう。また、レシピッピという存在について、今作で最も重要な側面はそこだという意味でもあるのでしょう。

 

レシピッピは人語を喋ることはありません。人々の「美味しい」という喜びの近くにふわふわと現れるだけの、特に何もしないし何にも影響しない存在です。

(ブンドル団に捕まると何故か『料理の味』が変わるけど。あれってもしかして、料理自体が変質すると言うより『人々の「美味しい」という喜び』の感覚が変質して結果的に『料理の味』が変わったように思えるとかそういう存ことなんでしょうか? レシピッピは「美味しい」気持ちのそばにぽわぽわ発生するだけで、その「美味しい」をもたらした料理には特に無関係な存在な気がするのですが。

まあ、ここはふわふわと流して良いところだと思います。そこの理屈を厳密に追求しないといけないようなリアリティラインの作品ではないと思います。)

 

プリキュア達は、レシピッピのいる光景――おのおのの食事にまつわる思い出を振り返りながら言います。「レシピッピを絶対助ける」と。

 

これってまあ、おかしいと言っちゃえばおかしいんですよね。

彼女達は、特に特定のレシピッピと何をしたというエピソードはありません。彼女達の大切な思い出は、確かにいつもレシピッピがそばにいました。けれどそれは、『食事の思い出』だからというだけです。レシピッピが何かをしたわけではありません。「レシピッピを助けたい」ってのは理屈的にはややズレてくる。

 

でも、「プリキュア達それぞれの食事への思い」はきちんと描かれています。

そして、『デリシャスパーティ♡プリキュア』においてレシピッピとは「各々の、食事への思いの象徴」です。この等式が成立しているなら、そりゃあレシピッピを守るのは当然なんですよ。だって彼女達には、「食事への思い」があるんだから。この展開を受け入れることができるのは、きちんと積み重ねができてる証拠だなあと思いました。

完全に余談なんですけど、同日の『デジモンゴーストゲーム』(感想記事)が積み重ねが出来てない話をごり押しする回だったので、ちゃんと積み重ねができてる今作を見ているとなんだかいたたまれなかったです。

 

一方で「レシピッピ=食事への思いの象徴」という等式が呑めない人、つまり今作の低め寄りのリアリティラインに同意しづらい人はこの展開も受け入れられないだろうなあともちょっと思った。確かに「食事への思い」の描写は積み重ねができてるんですけど、レシピッピはあんまり積み重ねが出来てなくて『ぽっと出』『突然プリキュア用の武器を出し始めた』っていう印象がなくはなかったです。

 

これはレシピッピという存在に深い設定をわざと与えていないこと、舞台装置に徹させていることの利点と弊害なのだろうなあと思いました。

深い設定がないこと自体は別に良いんですよ。レシピッピはそんな細かい設定が要らないポジションなのですから。ただ、今回はちょっと運用が下手だなあと感じました。それだけです。

 

 

※補足。

「レシピッピを助けたい」のは理屈的にズレるとは言いましたが、可愛い猫と何匹か親しく触れ合ったら「猫全般が可愛い、好き。猫全般を助けたい、守りたい」という感情が発生するのはそこそこ普通です。

彼女達は不特定多数の状態とはいえレシピッピと長く触れ合っているので、レシピッピ全般を守りたいと思うのもそこそこ普通です。そういう『当たり前の感情』が当たり前に発生して不自然に感じないだけのレシピッピとの触れ合いは描かれていると思いました。

 

 

■しっかりとセリフで語られる思い

今作は、ほんとに幼年層がターゲットなせいか、だいたいのことはきっちりセリフに落とし込んでくれてる良さがありますね(くどいときも無いわけではありませんが)。

レシピッピへの思い入れの件も、過去の積み重ねだけに頼らず今回の話の中で改めてセリフにしているのはちゃんとしていて好感が持てました。

 

 

■そのほか

「大人になると、小さな幸せでも泣けてくるの!」と、コメコメの成長を見ながらローズマリーの一言。キャラがきっちり立ってて良いですね。別にローズマリーのキャラを馬鹿にしたような描写でもないし、むしろ発言内容は共感できるものであるのに、ちゃんとコミカルです。

 

・今回のゆいのおばあちゃん語録は「小さじ一杯、大事な一杯」。特にお話にも響いてこないし、入れる必要あったのかな? と思いました。一話に一回必ず入れるのがノルマなんですかね?

アバンタイトル部分が余ったからおばあちゃんの存在をリマインドしておこうか」という意図だとしたら、余った尺を無駄遣いしなかった点は上手いと思います。

 

・全員変身バンクが初登場しましたね。シリーズの他作品では画面がずっと分割状態で進むことがあるんですが、『デリシャスパーティ♡プリキュア』では分割画面なのはほぼ最初だけ。

その後の流れもシェアリンエナジー→妖精をかざす→食べる&髪変化→前掛け・エプロン追加→胸元リボン追加→顔アップから妖精を腰にセット→個人名乗りと、流れに統一感があって見ていて爽快でした。個人的には「エプロン追加→リボン追加」のところが好き。

ちゃんと「全員変身バンクに直すときどうするか?」をイメージしながら個人変身バンクを作ったんでしょうね。上手く作ってるなあと感心しました。どの作品とは言いませんが、シリーズの他作品では「これ、全員変身バンクとして分割画面で全員分を一気に見たときの統一感は考えてなかったんじゃ?」みたいなバンクも正直ありましたからね……。逆に、個人バンクの内容がばらばらでも編集の妙で違和感なく全員バンクをまとめてているなあと思った作品もありました。

 

・Aパート終わり(CM前)、敵の強さに歯噛みするゆいの表情がすごくいいです。『デリシャスパーティ♡プリキュア』はコミカル表情に特化している印象が強いですが、シリアスな展開ではこういう表情を描くこともできるのですね。

 

「みんな! 三方に分かれて同時に行くのよ!」戦闘中のローズマリーのセリフ。このセリフが象徴しているとおり、『デリシャスパーティ♡プリキュア』は「戦術をちゃんと意識して戦っている」という作劇なので見ごたえがありますね。敵もデザイン元の調理道具に沿った技・戦い方を持っていてギミックが凝っています。そのギミックをどう攻略するか、というのが戦闘の毎回の見どころになっています。

 

・新アイテムのバンクはちょっとパッとしなかった気がしました。不正アクセス事件の影響による制作遅延ってまだ残ってる……んですかね? これなら全員の通常必殺技のほうが格好良い気がします。

ミキサーを銃に見立てるのは斬新だなあと驚きました。

 

・腹ペコった→じゃあ料理しようぜ→一緒に作った料理で打ち上げ団らん会という定型パターン、なんか丸く収まった感じで良いですね。ほのぼのと全員仲が良くて何よりです。こういうシーンが毎回入ってると、特に「これこれこういうイベントが発生して仲良くなりました!」とわざわざやらなくても仲良し度が上がっている感じが出ますよね。

 

・前半でゆいが生徒会長にレシピッピの件を質問して、冷たい返事をされても食い下がったシーンは正直「ああ、またゆいの悪いところ(自分が正しいと思ってしまうと他が盲点になってしまうところ)が出ているなあ」と思ってしまいました。レシピッピにそこまで興味がなくたって別に構わないじゃないですか。

けれど、最後の食事シーンでジェントルーのことを気にしたのはゆいでした。

やはり、ゆいは真っ直ぐだけどアンバランスな善です。優しくて明るくて勇気と思いやりがある、ヒロイックな善性。しかしその真っ直ぐな善性が良い出目と悪い出目のどちらに傾くのかは全く保証されません。

それも彼女の魅力、表裏一体の長所と短所なのだろうなと最近は考えています。彼女のこの個性を、彼女が省みることはあるでしょうか。仲間たちが寄り添っていくことはあるでしょうか。そこに物語を描くか、それとも描かないかも含めて、見守っていきたいと思います。