灰色の本

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『デジモンゴーストゲーム』第26話「飢餓屋敷」:感想

デジモンゴーストゲーム』第26話「飢餓屋敷」の感想です。

良い回だったと思います。ただ、今までのツケなどもあり、引っかかるところがゼロには流石になりませんね。

 

 

※ちょっと今週忙しくて十分に時間を取れなかったので、また追加記事を書くかもしれませんし、その際にこの記事も編集しなおすかもしれません。予定は未定ですが。

 

■比較的良回だが、及第点以上かどうかは微妙

今回は、大筋は良かったと思います。

 

派手なホラー要素はありませんでしたが、かつては良き親友だった相手が既に理解しがたい存在に変わり果てており、そのことが判明していく様子はじわじわとした恐怖がありました。

人間の死亡の使い方も良し。アンゴラモンがかつての親友を殺すという筋に持っていくには、それぐらいの深刻な理由が必要だったでしょう。

敵ゲストのデジタマモンのキャラ付け・設定も良かったように思います。

 

大筋は良くて、見ごたえがある回だったな、と思いました。「今回レベルのことができるなら、前回の脚本に力入れてやれよ……」と思ったぐらいです。

 

しかし一方で、例によって「今までの積み重ねが悪いから効果的じゃないな……」と思ったところもありますし、1話全体の流れはこれで正しいのかとも悩みました。また、戦闘は酷いな……と思いました。

良回だったけど、実際に良回と評価しようとすると欠点も目に付いて迷ってしまうような、そんな回でした。

 

 

アンゴラモン回、に振り切ってくれない脚本

特に戦闘が酷いなあと思いました。

多分おもちゃの販促か何かの関係でカノーヴァイスモンに実質のトドメを刺させなきゃいけなかった(大技を使わせなきゃいけなかった)んでしょうけど、いやカノーヴァイスモンに出しゃばらせるのは脚本の指針が酷いと思いますよ。実際にはトドメを刺したのはジンバーアンゴラモンだった? そこに至るまでにカノーヴァイスモンが出しゃばりすぎだって言ってんだよ。『実質』の戦闘終了の決め手がカノーヴァイスモンだったじゃねーかっつってるんですよ。

今回はアンゴラモン回だと割り切って、ガンマモン・ジェリーモンがサポートに入る程度にして、ずっとアンゴラモンの戦いにしてあげたほうが良かったと思います。この内容の回で、カノーヴァイスモンを見せるためにアンゴラモンをわざわざ一度やられさせるってどうなんでしょう。

 

もちろん、前回進化したばかりのカノーヴァイスモンの見せ場を作らなきゃいけないのは理解します。じゃあ、カノーヴァイスモンが進化した直後にこんな回を持ってこなきゃ良かったんじゃないですか? 『ゴーストゲーム』は話を進めるような内容の回をしてないんだから、だいたいの話が順番を入れ替え可能だと思います。なのに、カノーヴァイスモンに見せ場を作らなきゃいけないタイミングでアンゴラモンのアイデンティティに関わるような重要回をやってしまうんですか? カノーヴァイスモンにもアンゴラモンにも失礼だと思います。

 

アンゴラモンはもともと、戦闘面・進化面でやたら不遇です。ジンバーアンゴラモンへの初進化も一番遅かった(キーキャラであるグルスガンマモンの初進化よりも遅くてメンバーで最遅だった)のに、ルリの不在などで進化すらできない回が多いです。進化はできたけど、そのときには戦闘が実質終わっていたなんて回もありました。

せっかくアンゴラモンに着目した回なのに、何故戦闘でもアンゴラモンに着目してあげないんでしょうか。

 

 

■戦闘表現がしょぼくてよく分からない

カノーヴァイスモンを目立たせなきゃいけなかったという事情に目をつぶったとしても、戦闘がしょぼい……というか、表現力が低いなあと思いました。

デジタマモンの鉄壁の守りに対してジンバーアンゴラモンの攻撃力では歯が立たないということが分かったのに、一撃一撃の威力は弱そうなラッシュ技(ジャイブ)で殴り続けるってなんなんでしょうか。素で意味が分かりませんでした。時間稼ぎの意図でもなかったですよね? 『雨垂れ石を穿つ』をやりたいなら、それなりに台詞で説明してくれないと伝わりません。

 

肝心のトドメ(デジタマモン死亡シーン)も意味が分かりませんでした。

い、いや、上記の謎ラッシュよりは分かりましたよ。カノーヴァイスモンの攻撃でデジタマモンにヒビが入って脆くなっていたから、ジンバーアンゴラモンの渾身の一撃が効いたという意図ですよね。

しかし、絵的にはジンバーアンゴラモンの攻撃によって真一文字に、『カノーヴァイスモンの攻撃によって入ったヒビ』とは無関係に切れ目が入っていたんですよ。初見時は『カノーヴァイスモンの攻撃によって入ったヒビ』より『ジンバーアンゴラモンの攻撃による真一文字の切れ目』のほうがよっぽど強調されて見えたので、「な、なんで戦闘前半で通じなかったジンバーアンゴラモンの攻撃でデジタマモンが割れたの?」と本気で考えこんでしまいました。

 

いやうん、『カノーヴァイスモンの攻撃によって入ったヒビ』を見落とした(というか、気づいてはいたけどあんまり重視して見ていなかった)俺が悪いのかもしんないですけど、ねえ……。『ジンバーアンゴラモンが攻撃して、カノーヴァイスモンがつけたヒビが広がるような一撃になった』みたいな映像にしてくれたって良いじゃないですか。実際の映像だと、『ジンバーアンゴラモンの一撃で入った真一文字の切れ目からヒビが広がった』に見えたんですよ。ジンバーアンゴラモン単独の攻撃だけでデジタマモンの防御を割る程度の威力は出せるという絵面に見えたんですよ。だって、カノーヴァイスモンのつけたヒビに関係なく、ジンバーアンゴラモンは真っ直ぐに亀裂を入れることは出来てるんですもん。

そのほうが『トドメ』っぽいから……ということでジンバーアンゴラモンが真っ直ぐに大きな亀裂を入れるのは外せないという判断だったとしてもですよ。そもそも、事前に『カノーヴァイスモンの攻撃でデジタマモンはぼろぼろにヒビが入っている』ことを、ヒビをアップで映して強調することぐらいしてくれてもバチは当たらないんじゃないですかね。

 

なんか、『ゴーストゲーム』、ずっと下手なんですよ。絵で説明するのがずっと下手。背景とか小物とかは凝ってる気がするのに、肝心の本筋にまつわることを絵(映像)で説明するのがずっと下手です。

 

 

■デジタマモン=クロを最初に見せるのは正しいか

今回のホラーの大筋は、「まともだった親友が豹変しててビックリ!」です。

優しく知性的だった親友のデジタマモンが人食いに目覚めてしまって既に何人も食い殺していることを、アンゴラモンはルリが襲われるまで全く知りませんでした。

また、デジタマモンは表面的には以前と変わらず穏やかで知性的なアンゴラモンの親友でした。ルリを襲い、デジタマモン自身が人食いについて言及するまでその思考の異様さは発覚しなかったのです。

 

なのに、視聴者目線では冒頭の時点で『デジタマモン=黒確定(人殺し確定)』と分かっている状態で進んでいきます。「優しそうなデジタマモンが人殺しだった!」という驚きは視聴者には無いんですよ。これ、見せ方ほんとに正しいか? と初見視聴しながら悩みました。

 

視聴し終わってあらためて整理して考えると、「これはこれで見せ方は正しい」とも思いました。ですが、それは積極的に評価する意図ではなく「その妥協の仕方はまあ理解できる」という消極的な理由からです。

 

今回の話は、本来はデジタマモン=黒という確定は無しで進めて「先ほどまで親しく話していた相手に突然殺されそうになる恐怖」をやるのがベタなタイプの話だと思います。ただ、多分、それをやる力量か度胸が制作スタッフになかったんだろうなと思いました……。デジタマモン=黒ということを視聴者にも伏せて進めようとすると、他の情報の出し方もいろいろと入れ替える必要が出てきます。回の後半に重要な情報が全部集まってしまって、前半がすかすかっぽくなる一方で後半で怒涛の情報出しをしていかないといけなくなると思うんですよ。だから敬遠したんじゃないかなと思います。


それと、今回は実際には2点の恐怖ポイントがあると思います。

「親しく話していた相手に突然殺されそうになる恐怖」。

「元々まともだった相手がじわじわ狂っていった恐怖・まともそうな相手が静かに狂っている恐怖」。

これって別物の恐怖なんですよね。この2種の恐怖のうち、今回の話では後者に重点を置きたかったというのがあるんだと思います。決して両立できないネタではないのですが、1話という尺の中でスムーズに両方の描写ができないなら、前者を敬遠して後者に集中するのもまあ手ではあると思いました。逃げの姿勢ですけどね。まあでも、逃げの姿勢の結果として成功した回ではあると思います。博打の120点は諦めたけど安定の80点は取った、みたいな。

 

 

■人間とデジモンのギャップが弱い

序盤のアンゴラモンの「人間もデジモンも意外に変わらないんだ」の台詞に、思いっきり『審議中』の顔をしてしまいました。

『ゴーストゲーム』ではデジモンは人間の常識が通じない妖怪・悪魔っていう作劇じゃなかったか。全然違う存在ですよね。

いやでも、『ゴーストゲーム』のメインメンバー全員がホップステップ犯罪で非常識だから人間とデジモンの垣根がないのは事実だな……ええ……?

 

実際には、序盤の「人間もデジモンも意外に変わらないんだ」は今回の話では『皮肉』と見るのが正しいと思います。

だって、デジタマモンは『人間には分かり得ない、敵』になってしまいました。

また、人間に触れたアンゴラモンはデジタマモンから見ると異質な存在になってしまいました。アンゴラモンはデジモンの親友ではなく人間を守ろうとしました。そのアンゴラモンに、親友だったデジタマモンは言います。

>「変わったんだな。アンゴラモン、お前はデジモンか、人間か……」

これは、デジモンと人間は異質な存在であることを前提にした発言です。あくまでデジタマモンのセリフであるので、『デジタマモンはデジモンと人間は異質な存在だと思っている』でしかありません。

ですが、親友のデジタマモンを手にかけてしまったアンゴラモンは、その考えを一概に否定することもできなくなってしまったのではないでしょうか。冒頭で「人間もデジモンも意外に変わらないんだ」と親友に向けてにこやかに教えたころのアンゴラモンには戻れなくなってしまったのです。

もし今後アンゴラモンが同じことを唱えるとしても、その前には「それでも」という血を吐くような四文字がつくことでしょう。自分は変わり果ててしまった親友を失った。『それでも』、人間もデジモンも意外に変わらないんだ、友達になれるんだ。血を吐くような覚悟を伴って唱えることになるでしょう。

 

でもこの展開をやるなら、人間とデジモンの倫理的ギャップはもっとはっきりしてないとダメだと思うよ。

デジモンは基本的には分かり合えない怪物。人間の常識がない』はちゃんとやってますけど、『メインメンバー人間も割と犯罪しまくる非常識の集まりである』から人間とデジモンの(人間世界での)常識力・倫理力のギャップが出ないんですよ。

 

あと、今回の前提は『デジモンは基本的には分かり合えない怪物だけど、コミュニケーションの積み重ねで分かり合える』なんですよ。だからアンゴラモンは人間の友達になれたけど、運命の悪戯の結果そこを飛ばしてしまったデジタマモンは人間の友達になれなかった。そういう話であるはずです。

でも、今までの絆形成の説得力のなさから人間・デジモンのパートナー間の『分かり合ってる』感が足りねえ。特にルリ&アンゴラモン組は、『ずっと一緒にいる』感もなければ『よく話し合ってる』感も足りねえ。制作スタッフがそういう前提で作ってるのは知ってるけど、そもそもそんなこと作中でまともに見せてくれたことがないから知らねえ。「そういう前提があると思って見てね」みたいな回は何回もあったけど、その前提に同意してねえです。

これに関しては今回が悪いんじゃないです。積み重ねがないのが悪いです。いや、厳密に言えば積み重ねはあるんですけど、見たことがない存在しない前提に対して積み重ねていってるんです。だからずーーーーっと同意できなくてモニョってる。

 

 

アンゴラモンが締めを言えなくなる=今までは毎回言えていたという問題

しかし、アンゴラモンでこんな重い話をやってアンゴラモンが締めの言葉を言えなくなるなんて展開をやるなら、他にもアンゴラモンが絶句して何も言えないまま終わらせたほうが良い回があったと思います。そういうこと、よく考えて制作スタッフはやってるんでしょうか。信用できません。

 

パーティの良心みたいな顔して、惨憺たる被害が出た回でも呑気に謎語録してるのがアンゴラモンなんですよ……。これまで人が死のうとデジモンが死のうと呑気に謎語録してたんですよ、アンゴラモンは。
なのに、自分の親友が死んだ(親友を殺すしかなかった)回では黙るんですか? 他人事の被害はどうでも良いから軽くしか受け取らないけど、自分に関係する被害はダメ(重く受け止めて凹む)、みたいに見えるじゃないですか……。

とりあえず、ボコモン先生の死亡はアンゴラモンにとっては絶句して何も言えなくなるほどの辛い出来事じゃなかったってことですね。確かにそこまで仲の良さは描かれていませんでしたけど、どうかと思います。

 

アンゴラモンが絶句して締めを言わなかったので、

>「あのお屋敷は今もひっそりと建っているのです。まるで何事もなかったかのように……」

と代わりに締めを言い出すルリにもドン引きしました(現実に口に出してそう言ったのかは不明ですが)。

それは部外者が言うセリフなんですよ。安全な外野にいる語り手が「こんな怪談があったんですよ~怖いですね~」って言うときのセリフなんです。そう、それこそゴーストナビゲーターが言うようなセリフです。

なのに、襲われた当事者……そして、親友を喪ったアンゴラモンのパートナーであるルリがこんなこと言うですって? ルリ自身も短い時間だけど親しくおしゃべりをした相手が亡くなったんですよ、パートナーも明らかに意気消沈しているんですよ? どれだけ他人事なんですか?

 

 

■次のアンゴラモン進化回どうすんの?

いろいろ言いましたが、大筋の出来はほんとに良かったと思います。なので、なんでこの回をアンゴラモンの次の形態の初進化回に使ってやらないのかなと思いました。

進化回がショボかったら「あーあ、親友回で進化しとけば……」って言われるぞ。というか、俺は言うぞ。

 

 

■人食いにのめり込んだのは、知識を重んじるからこそ?

これは妄想もだいぶ入っている話なので、聞き流してくれて良いんですけど。

恐らくデジタマモンが人の魂を食べる快楽に堕ちてしまったのは、まさに『知識の探求者』だったからなのではないかなあと思います。
「人を食うと魂がなだれ込んでくる」ってつまり人間の魂=記憶=知識だったんじゃあないですかね、と妄想しちゃうんです。デジタマモンは人間の世界に迷い込んでしまって怯えてもいましたけど、人間に興味もあったんですよ。デジタルワールドの過去の記録を研究していたけど人間についての記録はなかった、とわざわざ言っているということは「人間について知りたいなあ」と思っていたということだと思います。

知的好奇心という言葉で表現すると良いものに聞こえますけど、敢えて悪く表現するならばそれは知的に貪欲であるということ。知識に飢えているということ。常に飢餓状態であるということです。

デジタマモンはうっかり人間の魂を食べてしまったことで、エネルギーだけではなく『人間の記憶、知識』もお手軽に得てしまったのではないでしょうか。自ら努力して学ぶのではなく、とてもインスタントに、大量に。知性を最重視していた探究者だったからこそ、デジタマモンはその快楽に抗うことができなかったのではないでしょうか。

 

もしそうだったとしたら、そこまで踏み込めないあたりが弱いなあと思います。面白そうなネタでも深掘りせずに単発で使い捨てちゃうという、『ゴーストゲーム』のいつもの弱さです。尺が足りなかったか、『そもそもそんな意図はなかった』かどっちかなんですけどね。今回はぎりぎりの尺に詰め込んでいる印象は受けたので、これ以上の深掘りはできなかったとは思います。

 

でも、主要キャラの親友の話なんていう重要な回なんですから、1話完結を諦めて2話構成ぐらいに膨らませても良かったとは思いますよ。別に人食い屋敷ネタで2話もやれって意味じゃなくて、デジタマモン編前編で別の怪異の話をやりつつデジタマモン登場~紹介をやって、後編で屋敷に招待→人食いの流れに持ち込むとか。

『ゴーストゲーム』が他に重要な話をいろいろ進めてる最中で「アンゴラモンの親友に2話も使ってる余裕はねえ!」って状態なら何も言いませんが、大したことをやってないんだから、仮にアンゴラモンの過去の深掘りも含めてアンゴラモン親友回を2話ぐらいかけてゆっくりやっても後の展開には響かなかったとは思いますよ。まあ「そこまで時間かけるほどのネタでもない」とスタッフが思ったなら異議を唱えるほどの話でもないですけど、残念だなあとは思います。

 

 

■そのほか

・前回今回とカノーヴァイスモン関連の脚本が雑だったのでカノーヴァイスモン自体は現在「嫌い」寄りの自分なんですが、OPのカノーヴァイスモン追加カットはすっげ格好良かったです。ウェズンガンマモンカットに食い気味に重なるヒロの足元のカット→一瞬でヒロの全身を舐めるようにカメラを持ちあげつつ→そのまま天に浮かぶカノーヴァイスモンを映し→一気にカメラを引いて、翼を広げるカノーヴァイスモンとカノーヴァイスモンが降らせる青い燐光をその広い攻撃範囲ごと映す。短い尺しかない中でこれは、完璧な仕事だと思います。

ただ、もともと秒数がほとんど貰えていないウェズンガンマモンさんのカットが更に短くなった……ような気がするのは苦笑ですが。うーん、冷遇。ウェズンさんのカットに食い気味にヒロ(とカノーヴァイスモン)の足が入ってくるの自体は格好良いんですけどね。

 

・デジタマモンは、防御は鉄壁で、攻撃は当たると実質即死という凶悪な戦闘能力を持つキャラでした。凶悪すぎて好きです。が、調べたところ、こいつって『完全体』なんですよね。より格上の『究極体』とかではなく。見た目もなんかころころしてますし。

デジモンの格付けって、全然直感的じゃないし実力にも比例してなくて、外野(そこまで熱心ではないファン)からするとやたら分かりづらいですね……。ポケモンはそこに大した序列がない(基本的には進化前より進化先のほうが強いが、相性次第でいくらでもひっくり返るということが強調されている)ので逆にあんまり気にせず見れるんですが。