灰色の本

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『デジモンゴーストゲーム』第35話「人狼」:感想②

 『デジモンゴーストゲーム』第35話「人狼」の感想②です。

 

長くなったので記事を①②に分割しています。

①は主にルリとアンゴラモンの話、②はそれ以外の話です。

 

 

■迷信に振り回されたりはしない、も何も……。

>迷信に振り回されたりはしない!

>伝説に成りすまして人を襲うアンタなんかに、

>あたしもジンバーアンゴラモンも負けない!

ルリのセリフ自体は格好良いんですけど……別に迷信に振り回される脚本じゃなかったですよね。

迷信に振り回されてたのは今回出てきた『田舎』の人々だけです。ルリは田舎の人々に追い詰められたわけでもなく、ちょっと揺さぶられた程度で自分から生贄になると言い出してがんがん突撃していったわけで、迷信に振り回されたという印象はありません。かといって、迷信に振り回されている田舎の人々の心情や恐怖を描きこんでいるということもありません。

 

そもそも、田舎の人たちからすれば「生贄=月夜野本家の人間」なのです。迷信に頼っていれば月夜野本家の人間に責任を押し付けて自分たちは一方的に被害者でいることができるのです。また、一般人である彼らは、怪異相手にそれ以上の対処ができるわけでもないんですよね。

彼らはどうあっても「月夜野本家の人間が生贄になってくれないから私達に被害者が出る……月夜野本家め……!」という被害者の立ち位置から動けないのです。彼らは迷信があることで害を被る立場ではありません。太刀打ち不可能な強大な怪異に対して、迷信にすがることでせめての心の逃げ場を見出すか、迷信を否定して無防備な生身で恐怖に晒されるか、どちらかなのです。『振り回される』立場ではないのです。

 

今回描かれた迷信の設定で振り回されるのは、生贄になることを運命づけられている「月夜野本家の人間」だけなのです。その月夜野本家の人間であるルリが今回『迷信に追い詰められる』前にさっさと自分から飛び込んでいってしまったので、誰も迷信に振り回されてません。

ルリがこの田舎で暮らしていて住人との人間関係があるなら「ルリを生贄にしたい人」「ルリを生贄にしたくない人」「自分が生贄になってもルリが守りたい人」などで悲喜こもごものドラマが発生し、『迷信に振り回されている』と呼べる状況の人も発生したかもしれません。が、ルリは急にやってきたお客様なので、そんなドラマはありません。だいたいルリたちは、『迷信に振り回される』前にちゃっちゃと回れ右して帰ったって文句を言われる筋合いはなかったぐらいなんです。そこに自分から飛び込んでるんですから、振り回されるも何もありません。

 

「ルリに格好良いこと言わせたい~!」という、制作スタッフのいつものルリ贔屓が先走っていて、脚本との整合性が取れていません。

ルリに格好良いこと言わせたいならそれでも良いんですよ。でも、それなら「ルリに格好良いこと言わせたい。具体的には『迷信に振り回されたりなんかしない』って言わせたい」ということをメインテーマにして、そこに収束するように『迷信に振り回される』話を書かなきゃダメだと思います。

 

こういうときこそお得意の、メインキャラの影が薄い単発ゲストでやるべき回だったと思いますけどね……生贄にされかけている現地の女の子をゲスト枠にして、ルリがSNS経由で助けを求められたのでみんなで調査しに行く……とか。

でも、『迷信』をテーマにするなら田舎の愛憎人間ドラマまで描きこまないといけないと思うので、そもそも一話完結でこの話をやったのが無謀だったと思います。そろそろ柔軟に、前後二話完結の話ぐらいやっても良いと思います。

 

あるいは、「生贄になる運命の月夜野家の娘・ルリ!」じゃなくて、映画『ミッドサマー』みたいに旅行者を狙って生贄にしようとする(生贄にする前提で旅行者を呼び込む)ような村ならなあ。迷信を信じこんでえげつないことをやってる村の恐怖、になるんですが……『ゴーストゲーム』的には、「本当に怖いのは人間」はNGで、だいたい全部デジモンのせい(または一緒に発生してるガチ怪奇現象のせい)にしたいんだろうと思われるので無理でしょうね。何より、その筋だと「月夜の姫の末裔、ルリ!」という持ち上げができないので制作スタッフ的にNGでしょうね。

 

 

■迷信を理由に生贄を押し付けるカス住民

それはそれとして、迷信を理由にたまたま旅行に来ただけの女の子に生贄を押し付けて当然という顔をしているカス住民、マジでカスですね。『ゴーストゲーム』はメインキャラに(というか主にヒロとルリに)人の心がない作品ですが、モブまで人の心がないのは逆に珍しいです。

一人だけ「子どもにそんなことさせんのか……」と言っているモブはいたようですが、他の連中がだいたい生贄を当然だと思っているので、テンプレ的なセリフを入れて言い訳を立てようとしているなあとしか思えません。

 

……「迷信に振り回されて愚かな行動を取る、時代遅れの田舎者たち」というテンプレートから抜け出せていないモブキャラ描写だと思います。制作スタッフの意識がそこで止まっていて、蔑視的です。

こういう「怪異もの(回によっては民話伝承などの要素を含む)」の作品を描くなら、逆に地方の民話や因習には敬意を払ったうえで書いてほしいと思いますけどね。話を書くために一般的な民話伝承などを深く調査していれば、当然そういう民話や因習が生まれた過程についても敬意が生まれるものなんじゃないかと思うのですが、少なくとも『ゴーストゲーム』のスタッフは違うようです。

まあ、怪奇もの寄りの作品でも、逆に「奇天烈な風習の田舎者を蔑視して笑う」ことを作風として一貫しているような作品もありますが……。

 

ちなみに、100年周期で祟りが発生して、生贄の決まりが発生したのが600年前だから、素直に考えればこれまでの祟りは6回、生贄は6人。……そんなスローペース&少ない回数の祟りで、「固定の人数が怪異に襲われる」という分析はできるんでしょうか。また、「月夜野本家の人間を生贄とする」というルールはちゃんと定着するもんなんでしょうか……。住民たちだって、一生で一回経験するかしないかのペースの祟りなのに。全くあり得ないとは言いませんが、適当だなあとは思います。

 

 

■田舎=ホログラムが珍しいと推測する世界観設定がぴんと来ない

田舎だからホログラムが珍しい。……うーん。実際にはホログラムを珍しがられているという推測は誤っていたわけですが、その推測が出たこと自体が……うーん……。

 

なんか『ゴーストゲーム』の社会状況設定って、いまいち信用ならないんですよね。まあ……はっきり矛盾していておかしいとまではいってないと思いますけど。

前回の「鉛筆は最近めずらしい。美術部なら使っているだろうから頼んでみる」も地味におかしいと思うんですよね。学校教育を全部タブレットデジタルペンとデジタルデータで、連絡プリントの一枚もなく済ませているって言うんですか? 可能性がゼロとは言わないものの……。

それとも、全部シャーペンやボールペンで済ませている想定をしている……? やんちゃ盛りなクソガキお子様の中には、シャーペンとかボールペンをすぐ分解したり破壊したりする子も結構いるそうですよ……?

 

いえね、そういう細かいところで近未来感を出していこうとする態度自体は評価するんですよ。でもなんか、ちょこちょこがさつです。

こういうの、ちゃんと他の脚本家さんと息を合わせて書いてるんでしょうか? だとしたら、「その世界観設定、ぴんと来なくない?」ってツッコむ人はいなかったんでしょうか。

……『ゴーストゲーム』について、「もともと世界観設定をしっかり練ってスタッフ間でちゃんと共有してるよ」、という出来の作品だとは思いません。

 

 

テティスモンは、格が下がるだけの悲惨な登場

毒相手だからテティスモンを出す。作中での先輩の狙いは良いのですが、「テティスモン=毒相手専用」みたいな描き方は悪手だと思います。そんな相手ばっかじゃねえだろ。状況に刺さらないと役立たずな奴、みたいに見えるだろ。

また、「毒相手だから」でようやく出したテティスモンがぼっこぼこにされてるのも良くないです。なんだこの役に立たないデジモン。最新の進化形態(登場二回目)なのに。それなら通常ジェリーモン状態かテスラジェリーモン状態でぼこぼこにされたほうがテティスモンの格が下がらなくてよっぽどマシでした。

 

マンティコアモンってつまり、毒持ちデジモンなんですかね。伝承上のマンティコアも毒持ちですものね。

でもそれで「マンティコアモンを出す→毒攻撃の技(既存設定)を出さなきゃ→毒にはテティスモンで対抗させなきゃ」と思考停止で突き進んでしまうのは脚本の作り方がおヘタクソなこと極まりないです。今回はアンゴラモンのラモールモンへの初進化回なわけで、テティスモンをメインにして大活躍させることはできないのですから。

今回のマンティコアモンは、毒技を使わなくても脚本には全く影響がなかったと思います。マンティコアモンに毒技を使わせないだけで、テティスモンが無駄に出てきて無駄にボコられて無駄に格を落とすのを避けることができたはずです。

 

 

■カノーヴァイスモンも、進化しないので結局役立たず

……あと、テティスモンを「毒持ち相手特攻」みたいに書く場合、特に特攻相手を持たないカノーヴァイスモンはどう立ち回れば良いんだっていう話で……。

 

今回なんか、ジンバーアンゴラモンがラモールモンに進化できなければ全滅だったわけですよね。そこで、カノーヴァイスモンに進化させない舐めプをしているヒロ&ガンマモン組は一体何なんでしょう。テティスモンみたいに解毒特殊技能持ちじゃなくて単純火力で殴るしかできないんですよ。なのに進化せず=全力を出すという判断すらせずにやられているこいつらはガチで役立たずだと思います。

 

デジヴァイスによるデジモンの進化は厳密には何かの条件があるかもしれない気配は感じられますが、今のところずっと気合で突破しているので、さっさと気合を出せという話にしかなりません。

※カノーヴァイスモンに進化できる時間には制限があるという描写もありましたが、「今ここでカノーヴァイスモンに進化してしまったら後で戦えなくなるかもしれない」という葛藤があって進化しなかったのなら、説明してくれないと分かりません。

 

 

■枚数がある『だけ』の戦闘シーン

今回、やたら戦闘シーンに枚数があってなめらかに動いていました……が、それだけです。カメラワークは特に良くはありません。枚数が多いだけです。

せっかく枚数が多いなら、今回の主役であるはずのジンバーアンゴラモン&ラモールモンをばりばり動かしてやればいいのに、そういう印象もありませんでした。ほんとにただ枚数が多いだけです。枚数使うにも予算がいるだろうに(だから普段は枚数無いんだろうに)、使い道がおかしいです。

 

前述のとおり、せっかく出したテティスモンは格を落とすだけのガッカリ役割でした。ラモールモンの進化も大して盛り上がりません。ベテルガンマモンは空気です。

今回は、(戦闘シーンに限らず)作画の質自体は普段よりかなり良かったんですよ。わざわざ枚数もしっかり用意してるし、気合が入ってない回というわけではないでしょうに、なんだろうなあ……この出来。

 

 

■データって何?

ダルクモンの説明セリフ。

>愚かな……。

>どうやら、この地に根付く伝説のデータを食べてしまい、

>自身をヒトオオカミとやらと思い込んでしまったようです。

 

いや、伝説のデータって何???

『ゴーストゲーム』世界でいうところのデータって、デジタルデータのことじゃないの??? なんなの??? それとも町の図書館とかにあったデジタル歴史データを食ったとかそういうこと?????

第29話「妖花粉」のときも、デジタルデータでもなんでもないはずの生身の人間からクモ連中がデータを直接まるかじりしてたこともありますよね。なんなの??? え? もしかして人体や自然界に発生している何かしらの電気信号のことをゼロイチだと見立ててデータだと言ってらっしゃる??? とか??? いやごめんね自分で言ってて思ったけどそんな設定だったら強引すぎるわ。

意味が分からん。一般語と違う意味で『データ』を使ってるなら、ちゃんと作中で説明してください。以上。

 

 

デジモン調査ファイルは失速どころか動きすらしない

今回もがたがたです。

デジモンの調査ファイルという名目なのに、

①ヒロがマンティコアモンの説明を一瞬したかと思うと、

②ルリが人狼の適当な説明をだらだらし始め、

③最後にものすごく強引に先輩をおどすようなことを言って話を振り、

④オチ担当の先輩が無理やり締めました。

これだけの短いやりとりさえ、まともに書ける人材がいないのでしょうか……。

 

あと、今さらですが、ヒロがデジモンの説明をするというのも謎です。デジモンに詳しいのはもともとデジモン側かつ博学なアンゴラモンだけで、ヒロはデジモンのことを詳しく知るすべがないと思います。

ひねくれた見方をすれば、このコーナーを実施することで「本編中にアンゴラモンは、味方にデジモンの情報提供をする役割を怠ることになった」とも言えるんですよね。敵について知ることが重要な『ゴーストゲーム』で、デジモンの詳細情報提示を『本編の後』に切り出すのは本当に正しいんでしょうか。

……まあ、もともと大して活用してなかったじゃんと言われればそこまでなんですが。完全体だのなんだのという格付けも、データだウイルスだワクチンだという属性も作中で使ったことがほぼ無いですし。今回のアンゴラモンも、「普段は天使系デジモンと一緒のはずだ」という説明は一応口頭で言ってましたしね。

 

もう、次回から調査ファイル見なくて良いです? だるいです。

 

 

■そのほか

デジモン事件解決後に更にエピソードがあるという構成自体はものめずらしくて面白かったのですが……それだけですね。本編中に入れられなかった話を無理やりお尻にくっつけただけでした。だから何、って感じです。

確かにあの昔話は本編中で提示されてしかるべき必要な情報なのですが、あんなふうに雑に最後にくっつけられてしまうと、蛇足という印象にしかなりませんでした。