『デジモンゴーストゲーム』第34話「壁這ウ者」:感想
『デジモンゴーストゲーム』第34話「壁這ウ者」の感想です。
ちょっと散漫な出来かなとも思いましたが、ビジュアル的に怖かったから良いんじゃないです?
■しっかり怖いヤモリ人間のビジュアルが秀逸
今回のホラー要素、突然やたら怖くてびっくりしました。
正直いつもの一発ネタで、「物語で」怖くするための脚本がなってない(なのでビジュアルになれてきた終盤になるほど怖さが尻すぼみしている)とは思うんですが、ヤモリ人間のビジュアルだけでかなり怖かったです。
また、そのビジュアルをきっちり怖く映すための映像面の演出もきちんと出来ていたと思いました。
特に冒頭、ヤモリ人間に変化させられる七海のシーンは良いですね。ベタですがちゃんと怖いです。
ヒロ宅に七海が侵入したときの、電気をつけたら天井に張りついた七海が首を後ろに倒す形で振り向いて目を光らせてギョロッ! というシーンも怖さを堅実なカメラワークで支えていてなかなか良いです。後者は(珍しくまともに)ヒロが恐怖で絶叫する描写があるのも良かったです。(ただし、ダイヤの指輪を口に咥えて盗んでいるというのは、ヤモリ人間のビジュアル的怖さに目が行ってしまって初見では分かりませんでした。しかし、そこに気づかなくても「ダイヤの結婚指輪が盗まれた」ことは話の流れで十分説明できていると思います。)
どうでもいいけど、あのヤモリ人間を見て「やっぱり! 七海ちゃんだ……」と分かるヒロも怖え。現在進行形で親交があるならさておき、卒業アルバムを引っ張り出してるってことは中学ではもう交流がない小学時代の付き合いの子ですよね。小学校によっては文化が違うかもしれませんが、小学6年で(修学旅行ではなく)林間学校に行くのは珍しい気がするのと、ヒロのキャラデザがずいぶん幼いことから考えると、小学4年(?)ぐらいのときにちょっと付き合いがあっただけの子なのではないかという気がしますし。
他にも鉄塔にたくさんうごめいてるヤモリ人間や大学を一斉襲撃して警報鳴らされてぞろぞろ逃げていくヤモリ人間たちも気持ち悪くて、良い感じに怖かったです。
■七海の父のさりげない怪我描写が光る
七海の父が「病院に連れて行こうとしても、嫌がって暴れて……」と言っているシーン、包帯を巻いた腕をさすっていたのが生々しくて良かったです。
彼の姿をよく見ると服の肩口も破れています。顔にも絆創膏を張っているんです。暴れる七海を取り押さえようとして怪我をした、ということですよね……。
『ゴーストゲーム』にしては珍しく、「本筋に関わる内容だが気づかなくても良い情報(セリフなしであっさりと流しても構わない情報)」を絵だけで表現するという適切な選択ができていたと思います。
セリフなしで済ませないでほしい情報(気づかないと本筋の理解に影響がある情報)をセリフなしで済ませることのほうが多いんですよ、『ゴーストゲーム』は。
■ヤモリ人間に驚いてくれないルリに少し引く
「確かにヤモリ人間ね……」
ルリの発言。確かに、事前に聞かされてたんだから多少は淡白な反応になるのはおかしくないですが……それにしてもあまりに淡白、かつ「おー、やってるやってるー」みたいな野次馬ノリな発言すぎて引きました。
例えばルリがもっとマンガチックな極端なキャラ付けで、ドライクール無感情枠に徹していればこの淡白さは気にならなかったと思いますし、「鉄塔じゃ誰かに命令されてた感じだったわよね」のような冷静な分析と合わせて頼りになったと思います。が、特にそういうわけでもないので……
ルリがヤモリ人間になったのを見たガンマモンが「ああ~~~!!!」と絶叫していたシーン、ああいうのが普通の反応だと思います。ルリは初見では遠目から見ていたので、もうちょっと抑えめでも良いんですが。
描写が少ないだけなので引きはしませんが、ルリがヤモリ人間化したのを見たシーン、先輩が怖がってなさすぎだと思います。あの状況では先輩もガンマモン並みに叫ぶでしょ。
■逃げる先輩を脅してじゃれるジェリーモンは、良くはないが及第点なシーン
恒例の、逃げようとする先輩をジェリーモンが捕まえて無理やり参加させるシーン。相変わらず先輩は可哀想なんですが、こういうじゃれあいシーンがないと先輩&ジェリーモンの関係性は生きてこないのでこれで良……い……良くないかもしれないけどとりあえず良いです。
ほんとはジェリーモンが先輩の意志を踏みにじることもなく、先輩がジェリーモンを怖がり嫌がることもなく、互いに尊重しながらじゃれあってる二人を見たいものですが……。第11話「カマイタチ」で、二人でなんか買い物行ってて「電車内で電話には出ないぞ~」という至極まともだけど状況的にギャグな会話をしてたシーンみたいに。
■メンバーのドライな関係は良いが、今までのパシリ描写が足を引っ張る
「明日は日曜日だし、(寝る場所は)ここ(=ソファ)で良いわあ」とあっさりヒロの家に泊まりたがるルリ。
メインメンバー間で恋愛感情がないドライな感じは好きです(※メインメンバー間でいわゆるカップリングが発生するような関係性の作品が嫌いというわけではないです)。ですが、普段が普段なので、ヒロの「じゃあ、二階の俺の部屋でどうぞ」という申し出を先読みして利用しようとしたようにも見えてしまうのがなんとも……。実際、ルリはその申し出を受けてさくっと二階で寝てますしね。
まあ、「ヒロが言い出さなかったらベッドを譲るよう自分勝手に要求してたんじゃないか」というほどルリが酷い子とも思いません。申し出がなかった場合は本当にそのままソファで寝てたんじゃないかとは思いますけど。
■ルリがヤモリ人間化したのはバランス取りとしてベター
割とビジュアル的には酷い目に遭わない傾向があるルリに、今回のヤモリ人間化をやらせたのは良かったと思います。ていうか、別に大して良くはないんですけど、普段からルリ贔屓だと感じられるシーンが多いのでバランス取りとして良かったと思います。
カットによってはヤモリ人間化したルリの顔が本気で不細工だったので、ルリ贔屓の制作スタッフがよくここまでやったなあ……と素直に感嘆しました。……それは素直に感嘆してるのか? ひねくれた感嘆では?
■先輩の頭の良さがガンガン活きる展開
今回の先輩は、最初こそいつものごとく逃げようとしましたけど、その後は頭脳役としてバリバリ働いてくれて結構良かったんじゃないでしょうか。
空回りしてる部分もありましたけど、策に実際効果があったかどうかが重要なのではありません。能動的にバリバリ動いて話を回してくれたことが良かったです。
・実験のために大学にダイヤが大量に運び込まれる、というニュースを知っていて大学への襲撃を予期してくれるのも良かったですし、「そこのプログラム作ったの僕~!」とドヤ顔して生き生きしてるのも良かったです。
・ダイヤモンドが燃えた→じゃあ偽物にすり替わってなくて本物じゃないか! という流れは『ゴーストゲーム』のギャグとしては珍しく普通に笑えました。
緩急の『緩』として真っ当だったと思いますし、先輩の知性からも正しいですし、知性があったがために先輩が思わず叫んでしまったというのも先輩のキャラと照らして正しいと思います。キャラを過度に蔑まずにギャグが成立してて良かったです。
・先輩が疑似デジタルワールド化でヤモリ人間たちを戦闘から追い出そうとするけど、ヤモリ人間化していたから不発だった……というのは、結果的に空回りでしたが良かったと思います。
先輩ってときどき「策が不発」というタイプのギャグ担当になるんですけど、能動的に動いてくれることは非常に良いと思うんですよね。特に『ゴーストゲーム』は敵の正体や特性がよく分からないことが常なので、たとえ失敗しようが数撃ちゃ当たるをやるのが正しいんですよね。
・「圧縮された酸素が発火すれば、その威力は計り知れないぞ!」「もうおしまいだ~!」という、嘆きながらの説明セリフも良かったです。先輩、便利~。
■全体的に頭が良いネタが多い脚本(脚本自体の頭が良いかとはちょっと別)
先輩以外も、全体的に頭が良いネタをたくさん使った脚本でしたね。普段と違う脚本家さん呼んでたりするんですか? 敢えて調べませんが……。
・場を水浸しにして、味方をジャンプさせておいて一気に電流を流して感電させ、死なせない程度に一網打尽にする、というジェリーモンの戦略は頭が良くて良かったです。
・ヒロが爆風消火によってサラマンダモンの消火を狙ったこと自体は頭が良くて良かったです。が、ヒロは何も細かいことをガンマモンに言わずにただソルブローを指示しただけだったのでイマイチのれませんでした。そんな難しいこと、ガンマモンに以心伝心で伝わるわけねえだろ!
※追記。デジヴァイスを通していると思われる「人間からデジモンのパートナーへの指示出し」に、技名を伝える以上の以心伝心効果がある……と妄想することは可能ですが、んなの説明されていないので知りません。説明してからやってください。その事実を伏せて進めたいなら、匂わせる描写を定期的にやってください。……そんなところ、伏線にしても特に面白みがないところだと思うので、制作スタッフが何も考えてないだけだと思います。
■『ヒロのデジモン調査ファイル』は鳴かず飛ばず
今回の『ヒロのデジモン調査ファイル』。
先輩をギャグ会話のオチにしたい、「天井の掃除だー」という最後のオチのセリフを喋らせたいがためにルリがシミュラクラ現象という雑学知識を喋る役回りをしています。
いや、そんな現象、ルリが知っているわけがないだろ。ルリにはSNS映え狙いでホログラムゴースト現象だろうと容赦なく突撃するという設定はあっても、オカルトマニアや雑学知識持ち博学って設定はないはずですよ。先輩が自分で解説を喋って自分で怯えてルリが「はいはい……」って呆れて流す、ぐらいの会話で良かったんじゃないんですか?
今更メインキャラたちの会話量を増やしてキャラ立てに利用したいという意図だと思っていましたが、キャラ立てとしてもこの雑さ。既に暗雲が立ち込めています。
(前回はいつも本編でやっているようなルリの先輩いじめを更にやるみたいな内容だったので、前回もダメだったのですが……。)
つまんないコーナーだから見なくてもいいかな。とりあえずあと1回か2回かぐらいは見ますけど、それでダメだったらもう飛ばそうと思います。このコーナーを見ようとすると、EDまで聞かなきゃいけないんで面倒なんですよ。
■(語り忘れ)新EDも世界観に合わない
そういえば、個人的にあんまりにどうでも良かったのでED交代時に言及するのを忘れてましたが……。
『ゴーストゲーム』のEDは、全部世界観に合ってなくて聞く価値を感じないです。
最新のED曲は、有名な方を招いて『ゴーストゲーム』専用に作ってもらったことは知っています。ですが、それでも曲調と歌詞の雰囲気が世界観に合っていません。
「怪奇ネタだけど明るい人間キャラと妖怪キャラ(デジモンキャラ)がわいわいつるむような、おどろおどろしくも根本的には明るいアニメだよ~☆」って嘘ついて作ってもらったんか? と思うぐらい合ってないです。「モンスターディスコ」というベースのネタは悪くないんですけどね。
■ネタバレ容赦なしの新ビジュアルを公開する公式
今回の話の直後、公式から公開されたビジュアルは下記でした(公式ツイッター引用)。
👻その怪奇は加速する👻
— アニメ「デジモンゴーストゲーム」公式 (@digimon_tv) 2022年7月17日
\✨完全体ビジュアル✨/
/ 解禁 \
ラモールモン初登場が注目される中
一足先に完全体ビジュアルが公開になりました‼
宙&ガンマモン達に起こる様々な事件がますますパワーアップしていきます😊https://t.co/XvFBNzdzIC#デジモン #ゴーストゲーム pic.twitter.com/RZ10xkTpYp
……うーん。デジモンシリーズは進化先の事前公開に抵抗がない独特の文化があることは知っているんですけど。
それにしても、まだアニメ本編で登場していないアンゴラモンの完全体、さらにはラモールモンという名前まで公式でネタバレしてしまうなんて、堂々としていますね。「早く完全体仕様の作品メインビジュアルを出したいから作中で早くアンゴラモンを進化させてラモールモンを出そう」という調整をしようとも思わないらしいです。
さっさとアンゴラモンを進化させても何も困らないと思われるんですけどね。ジェリーモンだって第29話「妖花粉」でテティスモンに初進化してから二度目のテティスモン進化はお預け状態です。ジンバーアンゴラモンをまだ出したいという事情があったとしても、ラモールモンの初進化だけはさせておいて実際にはお預け状態にしておいて構わないと思うのですが。
てーか、アンゴラモン&ジンバーアンゴラモンの出番が今まで少ないのは「今までたっぷり時間があったのに出番を割り振ってない」だけなので、さっさと進化させて活躍させるぐらいの融通利かせてもバチは当たらんと思いますが。
あと、「その怪奇は加速する」って。速度ゼロから速度を加えて走り出すのは、一般的には『加速』ではなくて『出発』とかだと思います。加速でも間違いではないけどさ。制作スタッフは「こんなに長いこと走って来たぜ……!」のつもりかもしれませんけど、ねえ。
■そのほか
・ものすごく細かくてどうでもいいことなんですが、夏放送回である今回の冒頭シーン、寝具がちゃんとタオルケットだったのは好感です。
・冒頭からヒロ達が掃除している家は、つまりヒロが父親失踪によって寮に入る前に暮らしていた実家であるわけですが……。
ヒロの実家の話なんて、第1話の回想でしか出てきてないと思います。覚えてなくても脳内補完しろと言われれば脳内保管できる範囲のことではあるんですけど、『ゴーストゲーム』のいつもの不親切さだと思います。流し見してる人はそんな細かいこと覚えていないと思うのですが。ああ、でも流し見する人は「突然出てきたこの家って何?」とかそんな細かいこと気にしないから良いのか……?
・「さて、お手伝いよろしくな!」とヒロがガンマモンに声掛けをする冒頭のシーンには、「おお、ガンマモンもお手伝いできるようになったんか……」としみじみ思いましたが、その後のカットをよく見ると何もお手伝いしてなかったので苦笑でした。普段やらかしてる破壊行為をしなかっただけで可愛らしいほうなので良いです。
・ところで、サラマンダーって言ったら創作ではトカゲ呼ばわりされることのほうが多い気がするんですけど、今回の怪異はトカゲ人間じゃなくてヤモリ人間なんですね。ヒロ達が勝手に呼んでるだけなのでどっちでも良いんですが、トカゲじゃなくてヤモリを選ぶ感性がちょっと面白いなと思いました。前振りとしてトカゲよりヤモリのほうが出しやすかったとか、そんなことですかね?
・ヤモリ人間たちが集団で宝石泥棒までしていることが分かって、先輩が「これ以上のトラブルはごめんだ~」と嘆くシーン。声優さんの演技が流石だなあと思いました。
先輩は難しい役柄なんですけど、大御所声優の石田さんがさらっとこなしていらっしゃるせいで逆にどのシーンのどの声が上手いという印象がないんですよね。常に上手いんです。今回はヘタレた嘆きの掠れた声が耳に残ったのでめずらしく「ああ、やっぱり本当に上手いなあ」としみじみ思いました。
・ヤモリ人間化したルリが家を抜け出すシーン、ガンマモンが「ルリ……ペタペタしてる……」と言っている後ろで先輩が(去っていくルリのほうを見て)マジで嫌そうな顔をしていたので爆笑してしまいました。良い顔してらっしゃる。
・小ネタなんですが、スマホ経由で指示出しする怪異(知性あるサラマンダモン)とその指示を受ける怪異(知性をなくしたヤモリ人間たち)って面白いですね。
・事件解決後、「モフモフは良いんだけど、苦しいよ、アンゴラモン」と言うルリ、声も笑顔も足をぱたぱたさせてるのも何もかも可愛い。普段からこれぐらい可愛げがあったら良いのに。
でもその後「ねえ、あのデジモン、知り合い?」て……。いくら記憶がなくたって、状況からそいつがヤモリ人間の元凶となったデジモンだってことぐらい察せるでしょうが。