灰色の本

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『デジモンゴーストゲーム』で『デジモンを倒さない』という方針は適切か?

デジモンゴーストゲーム』の作品内容と『デジモンを倒さない』という方針の組み合わせは正しいのか? ということを考える話です。

第12話「不幸ノ手紙」までの内容を踏まえています。

 

※この記事は初見当時に他媒体で書いた感想を元に、後から再構築したものです。

 

 

 

デジモンゴーストゲーム』は、敵として出てきたデジモンを『倒さない』物語です。

自分はデジモンシリーズについてはにわかなのですが、デジモンが『進化して強くなる』という要素を持ち、その進化を魅力的に見せるためにバトル要素を取り入れているシリーズなのは知っています……というか、知るも何もちょっと見れば分かります。

そのシリーズで『倒さない』という縛りを設けて作品を作ることは、なかなか制作陣にも覚悟が必要だったでしょう。少なくとも「バトルの爽快感が減るのでは」ぐらいは当然考えたうえの決断だと思います。

 

では今のところ、その試みは吉と出ているでしょうか、凶と出ているでしょうか。

個人的には『凶』寄りだと思います。

デジモンを『倒さない』という縛りにすることで今作に発生しているメリットとデメリットを、思いつく限り述べていきたいと思います。

 

 

■メリット:必ずしも格下と勝負しなくて良い

今作のバトルは『勝つ』ことを目的としておらず、必ずしも勝利する必要はありません。

その結果、敵の相手が必ずしも主人公側が勝てるような『格下』である必要が無いようです。

分かりやすいのは第5話「神ノ怒リ」。神格クラスと思われるマジラモンに、更に強力なおともが四人もくっついていました。全員を相手取るのが無理であるどころか、仮におとも一人だけを相手にしてもヒロ達では苦戦は必須だったと思われます。第5話は圧倒的格上の存在を相手に、戦わずなんとか謝罪に持ち込むことで切り抜けました。

こういう展開を入れて話のパターンを増やそうとする試みは面白いと思います。

 

 

■まだ使用されてないメリット:負けても良いのでは?

先ほど述べた通り、今作のバトルは必ずしも勝利する必要はありません。

実際、第5話「神ノ怒リ」のように勝利してないけど戦闘を避けてなんとか丸く収まったケース、第8話「百鬼夜行」のように勝利してないし敗北というほどの状態でもなかったけど外部介入により勝手に終わったケースなどが既に存在します。

ということは、敵デジモンとの状況によってはヒロ達が『敗北』しても、1話分のお話にできる可能性がある気がします。とりあえず命さえ取られなければ良いのです。

敗北エンドと変わらないような後味が悪いエンド(敵が改心せず逃走するなど)は既にやっているので、後味が悪い敗北鬱エンドも可能であるように思います。

 

 

■まだ使用されてないメリット:じゃあ、戦わなくても良いのでは?

上と似たような話ですけど、勝たなくてもいい、負けても良いかもしれないということは、そもそも『戦闘をしない』という話運びも可能なのではないでしょうか。

戦闘シーンを入れておもちゃの販促をしたりデジモンキャラ自体の宣伝をしなきゃいけないと思うので、何回も使える手ではないと思いますが、ときどきはアリなのではないでしょうか。

デジモンシリーズの過去作でも、戦闘や進化シーンを挟まない日常話ぐらいはあったかと思いますし。

問題は、今のところメインメンバー同士の仲があまり良くない&キャラが薄いので、『どうでもいい雑談をしたり仲の良いわちゃわちゃをするだけの回』をやってもあんまり響かない気がすることですが……

 

 

■メリット:和解するために敵を知ろうとする=謎を追う展開ができる

必ずしも戦闘でケリをつけなくて良い。力でねじ伏せて解決する手段を取らない。

つまり、

『力づくで言うことを聞かせられないなら、じゃあどうすれば相手はこちらの要求(怪奇現象を止めさせたい)を聞いてくれるのか?』

 ↓

『そもそも相手の要求は何か? 相手は何故怪奇現象を起こしているのか?』

というところの追及が多くなります。

 

これは第2話「博物館ノ怪」が分かりやすいですかね。第2話のヒロは、戦闘中のマミーモンの意味が分からない台詞をよく聞いてつなぎ合わせて「マミーモンは何をしたくてこんなこと(人間の誘拐と拘束)をしてるのか?」を推理し、その推理を元に誤解を解くことに成功しました。

 

相手を良く知り、理解し合い、折り合いをつけるということは、友好を築く、共存するということにも繋がってきます。

実際第4話「人形ノ館」のパンプモンとは友達になることに成功しましたし、第9話「捻レタ時」のクロックモンも「(借りがある)お前らがいるのでは人間を襲えない」みたいなことを言っていたので友達とまでは言えずともある程度の仲になったようなものと言えばそうでしょう。

この方向性で進めていけば、人間とデジモンが将来的に友達になる、良き隣人になるということも有り得ない話ではないのです。まあ今作のデジモンはデフォルトのスタート位置が『話が通じず人間を積極的に害してくる害獣』なのでだいぶ険しい道なんですけど。

 

問題は、そうやって友達(とか襲ってこない顔見知り)になったデジモンが今のところゲスト止まりであるところ。サブレギュラーに昇格してくれてはいないので、それ以上話が発展していません。

それと、もっと根本的なところなんですが、ヒロがいまいちデジモン達自体に興味があるのかどうかよく分かんないところが……。ガンマモンにいろんな食べ物を与えて反応を観察してたり、マジラモン見て突然「大きい!」と目を輝かす反応をしてたりするところからは興味があるっぽくも見えるのですが、全体的にはヒロは自分からデジモン達に突撃していくことは少ないです。というか、だいたいルリが勝手に突撃していくせいで、ほとんどの場合のヒロは巻き込まれて事件に参加しているにすぎません。親父探しのためにデジタルワールドのことも調べなきゃいけないんでしょ、ヒロ。もっと積極的になりましょうよ。

 

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■デメリット:爽快感や話のメリハリが犠牲になっている

多分これは視聴者が真っ先に思うことでしょうし、制作スタッフも作る前から真っ先に考えたことかと思います。深い説明は不要でしょう。

とりあえず殴ってなんだかんだで中断して尻切れトンボで終わり、というダラダラした展開が多い気がします。

けどこれは演出がヘタであるから悪いという気はします。逃走されてしまった第1話「口縫男」とか、勝利どころか土下座謝罪が決まり手だった第5話「神ノ怒リ」なんかは、別に戦闘で決着がついてなくても話はすっきりしててメリハリはあったと思います。

 

 

■デメリット:なんだかだ誤解→和解ケースが多くてマンネリ

第12話時点で、既にパターンが少なくてマンネリ感があります。

特に多く感じるのは「デジモンが人間文化をひたすら誤解してただけで害意は無かったんです! 誤解を解いて和解しました!」の誤解ケースです。このパターンは「人が死にかねないようなことをしておいて誤解だったとかそんなことある?」と言いたいようなケースばかりなので、1回なら「んっ?」と思いつつも目をつぶれるんですが、12話ぶんを放送した段階で3回もあるペースだと結構鼻についてきて、そのぶん多く感じます。

 

実際には、誤解を解いて和解したケースよりも逃走ケースのほうが多くて、4回あります。けどこの逃走ケースは『改心したふりをして逃走(第3話「ラクガキ」)』『和解したふりをして逃走(第12話「不幸ノ手紙」)』を含みます。また、『逃走したが、そもそも邪魔するヤツ以外への害意があんまりなかったらしかった(第7話「鳥」)』も含むので案外にパターンがあり、マンネリ化の印象は受けません。

第7話「鳥」はマンネリかどうかを語る以前に、敵が何も喋らないうえに突然逃走したので意味不明だったってのはあるのですが。

 

 

■デメリット:敵を倒さないため、進化する喜びが薄い

敵が強い、敵が強い! どうする、ヒロ、ガンマモン! おおーっとここで二人の心が通じ合って、進化だ! 大逆転! 強いぞ進化ガンマモン! 敵を撃破ァ! 大・勝・利!!!

……ということがないので、進化する喜びが薄いです。

 

厳密には、テスラジェリーモン初進化回の第10話「死ノ遊戯」は例外的に『進化→敵を一撃必殺』という爽快感ある流れでした。が、これは展開上、このときのバトルが『ゲーム(戦闘の結果で酒に漬け込みはするが、戦闘自体で命を奪うことはない)』という前提だったからです。

それ以外の話では、進化しても特にその進化形態で敵をぶちのめす展開になるわけではないのです。

 

てーか、せっかくガンマモンが進化したのにソルショットとかをぽいっと一発撃つだけで戦闘が中断して終わり、みたいな展開がなんか多い気がする。数えてはないけど。

ガンマモン(とヒロ)は進化をわりと出し惜しみする傾向があります。その場合、進化っていうのは『形勢逆転の合図』になるはずなんですけど、その形勢逆転ターンが始まってから戦闘中断(→中断したまま戦闘終了する)までがすげー早い。すっきりしません。

進化形態の「強い~~~!!!」っていう格好良さもいまいち伝わってこないんですけど、これって販促的に大丈夫なんですかね? デジモンって進化形態ごとにフィギュアとか売ってるイメージなんですけど。(※今作が実際にどんなおもちゃを売ってるのかは興味ないため調べません。)

 

 

■デメリット:デジモンの格(強さ)が分かりづらい

上記の『進化する喜びが薄い』って話にも関わるのですが。

主人公たちと敵が、強さに関わらず戦闘する→はっきり勝敗がつく前にだいたい中断するという流れなので、敵も味方も「どのくらいの強さ」なのかってのがよく分かりません。マジラモンクラスの『どう見てもこいつは神仏とかそのへん』って思えるビジュアルなら分かりますけどね。

 

デジモンには『成熟期』だの『完全体』だの『究極体』だのと言った格付けがあります。にわかから言わせるとまずこの名前付けがあんまり直感的ではない気がするのですが、とにかくそういう核付けがあり、今作のデジモンにもその設定は反映されています。各デジモン種族を紹介するシーンで技名などと一緒にこっそり書いてあります。

ですが、『ゴーストゲーム』作中でその格付けが説明されたことはありません。今作的にはどうでもいい、という扱いなのだと思います。

でも、戦っても戦っても味方が強くなったかどうかがはっきりしない、今戦ってる敵が格上でピンチなのかそうでもないのかも良く分からないっていうのはもんにょりします。

 

 

■デメリット:デジモンが危険な害獣である今作の設定と相性が悪い

ラージャンルで、デジモン=危険な害獣である(仲間デジにすら害獣がいる)という設定の今作で、『倒さない』というのは設定のチョイスが正しいのでしょうか。

 

コメディ寄りの作品で、凶悪な性格をしている敵が少ないなら分かるんですよ。

ただ、今作の設定だと、戦闘で敵を倒すというのは『自分たちの命を狙われたときに身を守る』手段にもなる。『今後も人間やデジモンに危害を加えることが分かり切っている敵を、放置しない』ための手段にもなる。

 

それを潰してしまって、良かったんでしょうか?

いや、危害を加えてくる敵だからと言って倒す=殺すのはダメ? その意見も正しいでしょうね。でもじゃあ、放っておくと高い確率で人を殺すと思われるデジモンを放置するのは良いんですか?

 

どちらかと言うと、『倒す=殺す』かどうか以前のところで問題がある気がします。

『人間やデジモンに深刻な危害を加えるし、反省するような性格でもない敵』。

これを出した時点で、事件解決の最終的な解に『倒す=殺す』という選択肢はどうしてもちらついて来てしまいます。

そのことに、制作スタッフが、腹を決めて向き合ってない。「それでも殺さないんだ」という決意ではなく、ただ単になあなあで『倒さない』をやっている。そういうように見えます。

 

 

■縛りを活かせてない点:頭を使って切り抜けることがあまりない

直接バトルで倒さなくて良いから、格上の相手を出してしまっても良い。

ですがその割には、『バトルではかなわないような格上の怪異に対して頭で切り抜ける』ことがあまりない気がします。

思い当たるのは第1話「口縫男」で栗の木ぶつけたぐらいかなあ。あれは初見で結構驚いたし、「なるほど! こういう頭の良い子が機転で切り抜ける展開もやっていくってことだな」と思ったんですけど。

脚本がルールを活かしてて頭良いと思ったのは第3話「ラクガキ」(実体化レベルの差を使ったバトル)もあるんですけど、あのバトルってヒロ達自身が能動的にそのルールを利用してたわけじゃないですしね。

 

 

■縛りを活かせてない点:主人公たちが覚悟して不殺を貫いているわけではない

先述した話に関連しますが、ヒロたちは「それでも殺さないんだ」と決意して『倒さない』をやっているわけではないんですよね。状況がたまたまずっとそんなふうに転がり続けている、それだけです。

第11話「カマイタチ」が分かりやすいですかね。第11話のアンゴラモンさんは、敵のレッパモン達がどうも人間達を害さないほうには話がまとまらなさそうだと見て取ると、さっさと倒そうとしています。彼は街や街にいる人間達・デジモン達を守りたいので、自分の責任でそう選んでいるのです。ルリの介入でたまたま殺さずに丸く収まりましたが、ルリは日頃から不殺を唱えているわけではなくて、たまたまレッパモン達に共感して割って入っただけです。

 

そもそもヒロとルリが『優しい』と説明されたことはない気がします。いや、あるかもしれないけど、いろんな描写を重ねると特に優しくないという印象のほうが強すぎる。先輩は面倒見は良いけどビビリなので、デジモン達の処遇をどうするかっていうことを腹決めて考えられるかって言うととりあえず除外です。あと腹決めて考えたところで、このパーティ内で意見が分かれたときに先輩の意見が考慮されたことはありません。

ヒロとルリはそこまで優しくはない。ヒロに至ってはどちらかと言うと手段を選ばない合理主義寄りっぽくも見える。少なくとも腹決めて不殺を唱えられるほどの大人物とは思えません。

 

第9話「捻レタ時」でヒロがクロックモンを突然助けたいと言い始める展開、あれがもっと事前の流れがあって説得力がある感じだったら良かったんですけどね。あそこで「ああ、ヒロは絶対に犠牲を出したくないんだ。今までも被害を出さないために必死で駆けずり回ってきたもんね」と思えたなら、話は大分変わってきたと思うんですが。実際には、ヒロはそこまで熱いやつではありません。逆に、デジモン事件と向き合うスタンスにまだ迷っていて手探りでやっているという様子でもありません。淡々と無関心なのです。

 

 

■まとめ

ここまで考えたまとめです。

・勝つ必要はない=格上が敵でも良い、負けても良いという設定は、話づくりの幅を広げる可能性がある

・相手を良く知ることがその回を切り抜ける重要なファクターになり得るのは面白いところ。ただしそうやって友達になったデジモンが今のところ再登場していないというのはマイナスか

・爽快感や話のメリハリがないのは、『倒さない』縛りのせいではなく演出が悪いのでは?

・実際にはあまり話のパターンを広げられておらず、マンネリ

・敵味方の強さが分かりづらく、進化してもあんまり嬉しくない

・『倒さない=殺さない』ことと、今作のデジモンは『人に害を成す危険な存在である(どちらかというとそちらが多い)』ということについてスタッフが真面目に腹を決めていないように見える

 

なんだか案外『倒さない=殺さない』という縛りが悪いのではなくて、演出が悪いとか、スタッフが考えて取り組んでいない気がするという、いつもの結論になってしまいました。

 

参考:第12話までの敵デジモンの結末リスト

第1話:口縫男 逃走  
第2話:博物館ノ怪 和解(誤解)  
第3話:ラクガキ 逃走 改心に見せかけた逃走
第4話:人形ノ館 和解(誤解)  
第5話:神ノ怒リ 帰還 謝罪に満足して帰還
第6話:呪ワレタ歌 和解(誤解)  
第7話:鳥 逃走  
第8話:百鬼夜行 帰還 デジタルワールドに帰還
第9話:捻レタ時 和解(改心)  
第10話:死ノ遊戯 和解 一時的な和解
第11話:カマイタチ 和解(改心)  
第12話:不幸ノ手紙 逃走 和解に見せかけた逃走

 

内訳としては

逃走:4件

帰還:2件

和解:6件

和解の細かい内訳は下記みたいな感じ

・誤解:3件(敵デジモンが人間文化他を誤解していたため怪奇現象を起こしたケース)

・改心:2件(誤解ではなく本当に害意かそれに準ずるものがあったが改心したケース)

ちなみに誤解ケースでも改心ケースでもない残りの1件は、一旦和解はしたが「また戦いに来るぞ」と言って去っていったキンカクモンのケース。