灰色の本

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『デジモンゴーストゲーム』第21話「蜘蛛ノ誘惑」:感想

デジモンゴーストゲーム』第21話「蜘蛛ノ誘惑」の感想です。

単体で見ると結末の落とし方以外は好きな回です。ですが続き物として見ると、前回第20話に続けてこの回を持ってくる理由がわかりません。第13話、第16話でのグルスガンマモン関連の前振りを考えるともっと分かりません。

 

※初見直後に感想を書いていますが、初放送から時間をおいた段階での視聴となっています。

 

 

 

■一番ツッコみたいこと

この筋だとグルスガンマモンの殺害を肯定しているんですけどね!?

後でツッコミを入れるにしてもそこは週跨ぎにしちゃダメなとこだと思いますよ! しかも、東映アニメーション不正アクセス事件が起こって一カ月放送休止が発表されたので、週跨ぎどころか月跨ぎになっちゃってるんですよね!

 

ヒロ達が、グルスガンマモンを責めづらい状況だったのはその通りです。今回の敵デジモンは完全に殺意で迫って来ていて、折り合いが付けられる余地はありませんでした。グルスガンマモンは殺したいから殺したというより、殺すしか方法がなくて、ヒロ達にそれを実行するだけの能力(または殺しを回避するだけの能力)が無かったから代行してくれただけです。グルスガンマモンの登場はイヤボーンみたいなもんなんです。

ヒロ達はグルスガンマモンに助けられたのだし、逆に言えば「ヒロ達の無力さがグルスガンマモンに殺害を実行させた」のです。ヒロ達がグルスガンマモンを責めることはできないでしょう。もし責めていたら、そちらのほうが神経を疑います。

 

けど、ヒロ達自身が、「ガンマモンにまた殺しをさせてしまった」と後悔する必要はなかったんでしょうか。殺害を嫌悪する表情のひとつも浮かべなくて良かったんでしょうか。

 

第16話ぐらいからここしばらく表情の描写は良かったです。今回も他のシーンの表情は良い。なのに。

今回、グルスガンマモンと対峙するヒロの表情からは汲み取れるものがありません。ヒロは責めるでも嘆くでも怖がるでもありません。淡々とグルスガンマモンを見上げています。グルスガンマモンの殺しによって助けられてしまったヒロがグルスガンマモンに直接的に言葉で語れることは少ないかもしれません。ですが、表情で語ることぐらいはできたのではないでしょうか? グルスガンマモンに見せない角度で構いません。

 

グルスガンマモンが案外悪いヤツではないのかもしれない(自分の命だけでなくヒロ達の命も守ろうとしてくれている?)……という描写っぽいのもちょっと微妙です。第13話、第16話でのグルスガンマモン関連の前振りから考えると、殺害は絶対ダメ、だからガンマモンには殺しをさせないってところで戦うんじゃなかったんですかね。

その目的と照らしても、子供向けアニメとしても、『殺害は絶対ダメ』と分かる描写は週跨ぎせずに入れておくべきだったんじゃないでしょうか。別に全部をはっきり台詞で言えというわけではありません。殺害に否定的な雰囲気ぐらいは描けと言っているのです。

普通のバトルアニメで殺害というより『倒す』をやっていくだけならそこまで言いませんよ。ただ、『ゴーストゲーム』はそこが重要だと描いていこうとしてるんじゃないんですかね。

 

致命的にダメとか悪いとまでは言いません。

ただ、がさつだなあと思います。自分たちが何をテーマにしようとしているか、本当に分かってるのでしょうか。

 

 

■直前の第20話とテーマが違う

先述の通り、今回第21話を『死、殺し(ガンマモンに殺しをさせたくない、敵を殺さない)』をテーマにしていると見るのは厳しいもんがあるんですけど、まあグルスガンマモンが登場したのは確かなのでそういうことにしておきましょう。

そうすると、直前第20話の『人間とデジモンの共存』がテーマっぽい筆運びとやっぱり重なってこないんですよね……。第20話の感想で書いた通り、この二つは並行で描くことが不可能なテーマではないんですけど、『ゴーストゲーム』の制作スタッフがそれをやりきれるほど器用とも思っていません。

 

……身も蓋もないことを言うと。

グルスガンマモンの話にちょっと触れたかと思うとそのことを忘れたような回が続いたりするので、制作スタッフは『死、殺し(ガンマモンに殺しをさせたくない、敵を殺さない)』というテーマひとつですら持て余しているというのが現状だと思います。

 

 

■『思わせぶり』をするスタッフが寒い

それはそれとして、「まだそのときじゃねんだよ……」と思わせぶりだけして去っていくグルスさん、中二病みたいで寒いです。

ていうか、第19話に続いて思わせぶりエンドで、得られた情報がほぼ何も無いから実はあんま進んでないってのが寒いです。グルスさんが悪いというより、制作スタッフがグルスさん絡みの謎を露骨にちらちらさせてて、そのくせ大した情報を出さないのが寒い。

 

 

■アルケニモンやグルスガンマモンを責める根拠はあるのか

アルケニモンって結局、進化研究マニアで脳を食べたい変態だったってことですよね。デジモンは人間のような法による制限は受けないですよね。

じゃあ、何を根拠に彼女を『悪い』と言えば良いのか分からないんですけど……。

 

アルケニモンという、話が通じなくて望みが相容れない(望みを受け入れるとこっちが死ぬ)、法の拘束を受けない相手。脳を食べる(=副次的に殺す)こと自体が望みである相手。

それでこちら(メインメンバーのデジモン達)も法の拘束を受けないなら、そこに残るのは道徳がどう倫理がどうという話ではなく、ただの弱肉強食です。そして、それで正しいと思います。殴り勝ったほうが言うことを聞かせる権利を持つのは、そんな場では当然だと思います。

 

アルケニモンとグルスガンマモンはお互いの望みが決裂し、殴り合いになった。

グルスガンマモンが勝った。

なので自分の望みである「ヒロ達の命」(※今回のグルスガンマモンはそのために現れたように見えます)を得るため、アルケニモンを殺した。

(※グルスガンマモンは勝利の一撃でそのままアルケニモンを殺しており、厳密には上の説明の順序は正しくないのですが、そういう話をしているのではないのでご了承ください。)

 

その流れのどこに異議を挟めるのか、逆に分からない気がします。「これ子供向けアニメだから殺しはダメだよ」っていうメタ的な意見以外でね。

そしてそのメタ的な意見は絶対に近いレベルで守らなきゃいけない意見なんです。なんか、第13話「処刑人」のシールズドラモンVSグルスガンマモンにも思ったんですけど、制作スタッフは自分達の手に負える以上の倫理問題を自覚なく作品に突っ込んできてしまっている気がします。子供向けのアニメの尺で描けることを超えている気がしますね。

 

グルスガンマモンとシールズドラモンのときに言及した意見は下記の記事を参照してください。 

 

haiironohon.hatenablog.com

 

 

■ヒロさんの家庭事情がなんかきもい

なんだろう。完全に個人的な感覚ですけど、海外を飛び回って帰りもしねえ母親にデジモンのこと教えてるヒロ、なんかきめえ。ソニアさん=アルケニモンが「貴方の母親からガンマモンのことを聞いた」って言ったこと自体には疑いを持たなかったってことは、母親にガンマモンのことを本当に教えてはいるんですよね。

お前中一だろ、そろそろ反抗期に入ってデジモンのことを自分だけの秘密にしようとしたりしても良いと思うよ。それにデジモンの説明、面倒くさすぎるでしょ。ヒロお前、そんなめんどくさい作業を自分からする奴じゃないでしょ。

 

ていうかどうやって説明したの? そりゃ確かに「父ちゃん生きてるよ、クソビデオレター送り付けてきたよ」ぐらいの報告は必要かもしれませんが、そこからどうやってガンマモンのことを説明して信じてもらうところまで漕ぎつけたの?

 

説明しようと思った時点で、ヒロ→母親の信頼値が高すぎる。そいつ、父親が失踪しても息子のヒロのところに一回も帰ってきてないと思われるのに?

それで、遠隔のメッセなりメールなりビデオチャットなりだけで母親が信じたなら母親→ヒロの信頼値も高すぎる。びっくりだわ。

でも、それだけ信頼してて親子の強い絆があっても、母親はヒロのところに一回も帰ってきてないっぽい(帰った描写がない)んですよね。一人暮らしの寮に変なデジモン(とヒロが呼んでいる未確認生物)がやってきて一緒に住んでますって、とりあえず確認しには行くだろ。本当に飛び回ってて忙しいなら即日は無理かもしれないけど、なんとか時間作って帰国するだろ、『強い絆がある親子』なら。なんだよその親子。

更に言えば、そんな重大な事実を母親が同僚のソニアさんにバラしている事実についてヒロが全く疑いをさしはさまないところは逆に『ヒロ→母親の信頼値が低すぎる』んですよね。なんなんだよ。

 

いつもの重箱の隅つつきだって? そうですね。

でもさこれ、少なくとも今回の脚本家さん、もっと言えば設定を決めるスタッフ(監督かな?)が、ヒロの家庭環境をよくイメージできてないから発生するタイプの不整合である気がしますよ。

 

ヒロさあ……お前、母親だけじゃなくて父親にも爆弾抱えてるのに、スタッフがそのあたりのこと真面目に考えてなさそうで、可哀想すね……。どちらにしろ、母親も役立たずそうだしさ……。

なんか食べ物か日用品の差し入れでもしてやりたいけど、お前の好みのことよう知らんわ。チョコレートなら喜びそうだけど、ガンマモンにあげられるから喜ぶのであって、チョコレート自体は全部ガンマモンに食われそう。そうだな、バブの詰め合わせでも送ろうか……?

 

 

■被害者(人間)の死は故意なのか?

今回の被害者、「助かったのね……」みたいに言われてますけどアルケニモンが脳を食いちぎってぐちょぐちょ飲み込んでる音がしてますよね。重役さんが「食われる! 高見君も田沼君も頭から!」って叫んでますから、少なくとも高見君&田沼君の二人以上は死んでますよね……。

 

『ゴーストゲーム』の人間の生死に関するスタンスがよく分かりません。

前回第20話ではっきり殺しちゃったから人間の死亡は解禁なんでしょうか? それとも前回が例外回で、ああいう特殊回以外は人間の死亡はNGということ? 今回明らかにアタママルカジリ済の死亡者が二人以上いるのはただのミスなんでしょうか。

というかそもそも制作スタッフ的には前回が人間の初死亡なんでしょうか。第16話と第19話も『手遅れ』の人間がかなりいそうでしたけど、あれは死んでるって意図なんでしょうか、ぎりぎり助かってるって意図なんでしょうか。

 

いろいろよく分かりません。ただここまでの回、特に前回と今回を見る限り、仮に人間を殺すとしてもそこまで直球でグロテスクなことは(制作方針の問題で)できないのではないかと感じました。

前回は「生きたまま焼かれる」ですけど実際のビジュアルとしては「黒い粒子になっていく」程度ですし、今回は実際には相当グロいことが起きていたのでしょうけど効果音で示されるのみでした。

 

まあ、個人的にはですが、直接的なグロテスク表現に頼らないのは歓迎です。直接的に血がドバーで内臓がぐっちょぐっちょみたいなグロテスク表現は苦手なので。だいたい朝枠の子供向けアニメでそんなものを流すなとは思うので。そういう直接的な描写に頼らず、恐怖を描いていってほしいと思います。

 

でも前回の焼死は腹決めてもうちょっと頑張ってほしかったかな……明確に人間の死亡を描くのをここまで引っ張ったんだからさ……

 

 

■そのほか

・今回のアルケニモンの人間姿(ソニア・モリーナの姿)は、シリーズ過去作「デジモンアドベンチャー02」に人間姿で登場した時のイメージを元にしているのだと思います。02のときは最終的にコメディ悪役幹部っぽい立ち位置になっていたのを覚えています。長く出演しており、同じくコメディ悪役幹部っぽい立ち位置のマミーモンとのコミカルなやりとりも多く愛着が沸くキャラクターでした。

そういうことを思い返すと、やはり『ゴーストゲーム』は敵デジモンに一向に愛着が湧かないなあと思います。ほぼ全員が一発こっきりのゲストですからね。出番の量からも、人間から理解しがたい害獣挙動を取ることからも、愛着が湧く余地がないです。

 

・『母さんの同僚のソニア・モリーナさん(人間)』は作中で実在するんですかね。実在する人間の名前をアルケニモンが騙ったってことなんですかね。わざわざヒロの母親の職場にソニア・モリーナという架空の名前を名乗って人間としてずっと潜り込んでいた、って意味ならちょと怖い。

ソニア・モリーナさんというヒロ母さんの同僚は実在して、ヒロのところを訪ねようとしていたのも本当だけど、来る前にアルケニモンに殺されて入れ替わったってことでも怖いですね。

 

・「昆虫の行動はAIプログラムに似ている」という先輩の発言には地味に共感。そして先輩らしいと思いました。

ちなみに、完全に余談ですが。人間は、蒸気機関の時代には蒸気機関を人間に似ているとたとえて、パソコンの時代にはパソコンを人間に似ているとたとえて、AIの時代にはAIを人間に似ているとたとえているそうです。その時代の最先端技術を『人間に似ている』となんか思いたくなっちゃうらしいですよ。そういう意識になんとなく似てますね。

 

ニューラルネットワークのことを「脳内の神経細胞のつながりのこと」と即答する先輩。頭が良いと言えばそうですが、どちらかというと彼の分野と近いからですね。(脳内の神経細胞のつながりの様子をもとにした)AI関連のプログラムに活用される数学モデルのことでもあるので。

 

・カメラを破壊していくせいで逆に位置が割れる先輩、珍しくシンプルにアホの子ですね。でもカメラを破壊しなくても映像から位置は割れますからねえ。

 

・進化形態を任意選択して進化できるようになったため、戦局に合わせて能動的に進化形態を変えていくのは非常に良いですね。バトルのメリハリには今後大きく貢献すると思います。

というか、バトルのメリハリに貢献できる要素なので、ちゃんと脚本で活かされることを期待します。このスタッフなら活かしてくれると迷いなく思えるほど今作の脚本を信頼してるわけでは、正直……。

 

・アルケニモンさんは脳が食いたいヘンタイ害獣としてきっちりキャラが出来ていて、好きです。ほとんど毎回『害獣で好き』って言ってんな。

和解はできないタイプのデジモンですが、進化研究者としての発言は普通に知性を感じさせるものでしたし、『脳が食いたいヘンタイ』であることさえ受け入れてしまえば理解はしやすいキャラでした。

『ゴーストゲーム』で実質ノルマ状態になっている害獣性がヘンタイ部分に全部吸収されてるんですよね。動機が分かりやすく、アホ挙動もしないので見やすかったです。