灰色の本

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『デリシャスパーティ♡プリキュア』第16話「らんらんって変…!? 肉じゃがとウソ」:感想

『デリシャスパーティ♡プリキュア』第16話「らんらんって変…!? 肉じゃがとウソ」の感想です。

らんちゃんは偉い。がんばった。

 

 

■「変」であることに悩むらんという変化球

前回に引き続いて、キャラの基本イメージに真っ向から石を投げる内容で驚きました。

前回は、ここねの「みんなと食べるのが美味しい」という考えに轟さんという別人物が「一人でも美味しい」という別解を与える話でした。

今回は、明るい一辺倒に見えたらんが「実は自分が『変』であることを気にしている」「ちゅるりんアカウントのことはプリキュアメンバー以外には隠しており、ちゅるりんアカウント以外で食レポを披露することもない」という事実が判明します。今までのイメージに石を投げたことにも、その投げ方(明かされた事実の内訳)にも驚きました。

 

彼女にとっては、プリキュアメンバー(メンメン含む)に対して楽しく食レポをやっていたことのほうが例外だったのですね。

良くも悪くも「食レポ自体がどう評価されるか。その食レポで美味しそうと思ってもらえるか、実際に読者に足を運んでもらえるか」以外の他人の評価=『自分自身がどう評価されるか』はあんまり気にしていない図太くてパワフルな子だと思っていたので、パワフル一辺倒ではない等身大のゆらぎがあったことは意外でした。

 

でも確かに、改めて振り返れば、それらしいところが無かったわけではないのです。ここねとの不和回(第9話)では俗語で言ういわゆる『アッパー系コミュ障』のような挙動を見せていましたし、そのことを本人としても気に病んでいる様子でした。あれは「ここねはせっかくできた友達だから」というだけではなくて、元々「他人に変だと思われたくない」という消極的な願いを抱いていた子だったからという側面もあったのですね。(※正直第9話で語られた内容について、ここねのダウナー系コミュ障はさておき、らんのアッパー系コミュ障はあっさり忘れられる要素かなと信頼せずに見ていました。きっちり回収されてキャラ性に昇華されたのでその面でも結構びっくりしました。舐めててすみませんでしたスタッフさん。)

前回第15話のピクニックシーンでは、ここねのピクニックを見守っているゆいとらんのところに別の学生が食べに来たためにらんが食レポ語りを途中でやめて笑って誤魔化すシーンが挿入されます。さらっと流された&本筋(ここねの話)に明らかに関係なかったのであまり気にしていませんでしたが、あのシーンは今回第16話のための静かな前振りだったわけですね。

 

自分は彼女を「自分で自分の機嫌が取れてずっとご機嫌でいられる、偉い子」だと思って高く評価していましたが、実際にはより複雑だったのですね。『学校』という人間関係が絡むフィールドでは自分を押し込め、その分を『一人での』食べ歩き、または『理解ある(というよりは目指すところが同じの)家族のもとでの』料理研究をすることで発散してバランスを取っていたのですね。

いや、より一層偉いです。ちゃんと「自分が理解されない(かもしれない)」という現実をも生きながら、揺らぎながら、それでもちゃんと折り合いをつけて、自分の「好き」を諦めずに生きてきた。自分でバランスを取りながら生きていたのです。らんちゃん、偉い。もともと自分はらんが一番好き・高評価なキャラだと思っていましたが、今回の話でキャラ性に奥行きが出て、よりぐっと好きになれた気がします。

 

 

■「変」であることそのものは否定しない筋運びが秀逸

彼女のウィークは、「変」という言葉です。過去に何度か「変」と言われて遠巻きにされたことがあります。今回の話も、起点は高木くんに「変」だと言われたことでした。彼女は(アニメ表現なのでギャグ顔ですが)深刻に顔色を変えて落ち込んでいました。

 

プリキュアシリーズでは「何かを『好き』であることを否定される必要はない。好きなままでいい」という、『好き』を肯定するメッセージが一種のパターン化している印象があります。これは子供たちへの現実的かつ温かいエールだと思います。

また、ざっくりとした表現にしてしまえば、特に近年のプリキュアシリーズが明確に押し出している&現実社会でもトレンドである『多様性の肯定』というテーマの一環だと言えるでしょう。外国人や異民族やセクシャルマイノリティのような『ちょっと遠い存在(実際には近くにいるかもしれないが遠くに感じてしまう存在)』の話でなくても、多様性の基本はこういう身近なところから始まります。

シリーズとしてその価値観を子供たちに伝えていきたい大切なものと考えるなら、それで良いと思います。『多様性の肯定』を押し出して成功するならそれで良し、失敗するなら単に脚本が下手なだけだと思います(どんなテーマでもそうです)。

 

特筆すべきは、今回の脚本は

・『変』であること。

・誰かを『変』だと思うこと。

このどちらも否定しなかったことです。

 

マリーはらんちゃんへのエールとして次のように語ります。

>ねえ、思ったんだけど『変』って素敵なことじゃない?

>『変』っていうか、みんな好きなものが違うだけなのよね。

>好きなものを好きっていうのはとてもすてきなことだし、どんどん言っていけばいいのよ。

>らんのごはんへの鬼盛りの情熱は才能よ!

>誰に何を言われようが、自信を持って良いってこと。

>だって大好きなんだから!

 

 

高木くんが今回の話の結論としてて、最終的に呟いた言葉は次の通りです。

>やっぱ、お前(らん)って『変』。

>でも、『変』だけど、なんかカッコいいかも。

 

 

らんが『変ではない』とは表現しなかったのです。『変』だけど、それが才能だ、それがカッコいいのだと表現したのです。

 

らんを『変』だと言った高木くんも嘘つきでだいぶ変な子だというのが肝なのだと思います。らんは『変』でもそれで大丈夫な子(それが自然体な子)ですが、高木くんは変どころか兄がいなくなったさびしさを拗らせた問題児に近い子でした。周囲の大人によるサポートやケアが必要な可能性があるほうの子供だったのです。

そして、仮に高木くんがサポートやケアが必要な子供であっても、酷いことを言われたらんは彼に「酷い」と怒ったって構わなかったと思いますし、なんなら「そっちのほうが嘘つきで、変だよ」と言い返したって構わなかったと思います。高木くんが可哀想な子だったとしても、だからってらんが一方的に八つ当たり先になって良いわけではないのですから。

 

けれど、らんも、そして彼のさびしさを見抜いたここねも、誰も彼を糾弾しようとはしませんでした。直接に話をしにいったゆいでさえ「嘘を言うのはやめてよ」という注意止まりで、『怒る』ことはしていなかったと思います(怒らないので押しが弱すぎて言い負かされていました)。

 

実際、らんは変な子なのです。食レポの内容どうこうというよりも、最後の高木くんとのやりとりを見てください。

 

勝手に他人の食事風景を覗いて、

いきなり「ちょっともらっていい?」と押しかけて、

もらった肉じゃがを堂々と美味しそうに食べて、

食レポを語りだして、

「なんでさっき食べたときにがっかりしてたの?」とかいきなり振ってきて、

「肉じゃがを代表して聞きたい!」とワケ分かんないこと言って問い詰めてきて、

かと思うと高木くんの「甘さがなんか足りないっていうか」という言葉に反応してレシピの違いを分析し始めて、

高木くんが思わず「お前、なんでそんなことまで分かるんだよ」と言うぐらいには納得できる仮説をあげて、

はにゃ~謎は解けたー!」と勝手に喜んで、

気が済んだら帰っていく。

 

めちゃくちゃ変ですよ(笑)。

台風のようなアッパー系コミュ障ちゃんですよ。

らん側から言わせれば「高木くんががっかりしてた顔してたから介入した」という理由があっても、高木くん当人から見れば(いくら「がっかりしてたから」と説明されたからって)突然押しかけて料理に「一口ちょうだい」しに来た子ですよ。

 

しかもその台風のような勢いで、「兄の作った肉じゃがと料理店の肉じゃがでは何かが違う」という、自分にとってはとても大事な疑問を解いて去っていった子ですよ。

 

らんちゃんは、どう見ても高木くん目線では変な子です。しかし、変な子だからこそ印象に強烈に残ったのではないでしょうか。

「なんかカッコいいかも」という、一種のヒーローとして。

 

そして、らんが俗語で言うところの『アッパー系コミュ障』っぽいタイプの変な子であることもまた肯定されたのではないでしょうか。

ネットでは「アッパー系コミュ障はコミュ障である自覚なしにぐいぐい来るから困るよね」と煙たがられがちですし、実際に対峙すると面倒くさいこともある個性なのは確かです。

 

しかし、コミュニケーションは『最初の一歩』をどちらかが踏み出さないと始まりません。

らんが高木くんに突然に突撃して「ちょうだい」と言い出し、会話のイニシアチブを握ったまま自分のペースで話ができる子でなかったら、高木くんのささやかなしかし本人にとっては重大な疑問が解けることがあったでしょうか? 最後のお弁当のシーンで、「うひゃー! 甘くてうめえー!!!」と言って泣いて喜ぶ高木くんの姿を見ることができたでしょうか。

 

今回の物語は、『変』である同士のらんと高木くんが、『変』を否定しないことで両方の救済にいたるという物語であったと思います。高木くんは受け身だったので、らんちゃんの努力の賜物だと思います。

らんちゃん、偉い。良いお話でした。

 

 

■作中料理の中でもいつにも増して美味しそうならんのラーメン

『デリシャスパーティ♡プリキュア』はいつも食事が美味しそうですが、今回のラーメンは特に美味しそうに見えました。

らんの独特で熱のある食レポがあると余計に美味しそうに見えるんですよね。特に今回はラーメン好きのらんの『ラーメン知識に基づいた』食レポで、具体的に「まずはかつおぶし」「それと、にぼしとこんぶ」「別の鍋でだしを取って、鶏のだしと合わせるの」と畳みかけてくるので想像がしやすく「全部は無理だけどちょっと真似してみたい、作ってみたい」と思わせるものが有りました。

 

強いて言うなら、前半で作ったものがラーメンで、後半が高木くんの絡みで唐突に肉じゃがが出てくるので、そこのちぐはぐが整ったらもっと良かったですかね。

でも、ラーメンを作る流れは「らんちゃんの好きなラーメンを一緒に作ることで、らんちゃんを間接的に励まそうとした」(みんな優しい)なので、前半で肉じゃがに出てこられるほうが唐突です。かと言って今回の肉じゃがエピソードをラーメンに置き換えたら話が分かりづらくなりそうな気がしますし。らんちゃんにラーメン知識があるのはもはや当たり前なので、今回「肉じゃがなどの他の料理についてもしっかり知識がある」ということを描いたのはプラスだと覆いますし。無理矢理に前半後半で料理を揃えるよりは、これで良かったのかもしれませんね。

 

 

■拓海&あまねは出番なしで大丈夫か?

今回は拓海=ブラックペッパーの出番はありませんでした。

ブラックペッパーは登場したての今のうちに良い出番を描いておいたほうが良いと思いますが、大丈夫でしょうか? 彼はまだそこまで戦闘面で目立てていないので、ちょっと懸念です。

 

更には前回今回とあまねの出番&言及がないのも気になります。その状態でいきなり次回があまね再登場&プリキュア化回のようなので、「大丈夫かな……」とも思います。

恐らく今回第16話までまだ伏せっていたということにするのでしょうが、あんまり放置してるのでどうしても細かい印象は飛んでます。あまねの失意&ゆい達との友情の始まりをじっくり描写する回をプリキュア化回とは別にワンクッション挟むとか、前回今回のここね&らん個人回をあまねを絡めて進めるぐらいでも良かった気がしますが……『デリシャスパーティ♡プリキュア』の脚本の平均点の高さは信頼しているので、お手並み拝見といったところでしょうか。

 

 

■そのほか

・ブンドル団のシーン。ナルシストルーがまだポーズを変える気で笑っていましたが、そこからゴーダッツの再登場で一気にシリアスに締めてきたので驚きました。コミカルとシリアスの緩急が上手いです。

 

・高木くんが「寂しいのかも」という指摘をするのが今まで寂しかったここねであるあたり、きちんとセリフを割り振っていますね。単に「このキャラのセリフが少ないから言わせよう」ではなく、どのキャラが言うべきセリフ内容なのか考えられていると思います。

そんなの当たり前って言わないでくださいね、こういうことができていない作品は結構多いんですから。

 

・今回は戦闘が終わってから「失われた思い出」を説明するという、いつもとは順番を入れ替えた変化球ですね。初見は唐突でびっくりしましたが、これはこれでマンネリ化を防ぐための手として良いと思います(何度も使える手ではないとは思いますが)。

ただ、引き続き「思い出」ノルマがいまいちピンと来ないなあと思います。別に「思い出」という綺麗な言い方じゃなくて、料理にまつわるちょっとした「記憶」が消えてしまう、とボヤかした言い方にしても良かったんじゃないかな……。「思い出」っていう言葉から想像するような重大なものと実際に消えたものがいまいち釣り合ってこないんですよ。

 

・ナルシストルーのブンドルバンク。特に変更はないんですが、最後のナルシストルーの陶酔的な表情はいつ見ても笑ってしまいます。妙に気合の入った「カモン!(指パチン)」もです。

 

・拘束状態でバンクなしのバリバリカッターブレイズを使い、腕にエネルギーをまとって地面を破壊する展開は驚きでした。

やっぱりらんちゃんは頭が良いですよね(感性でやってるとは思いますが)、そういう頭の良さも個人的には好きです。バンクなしで応用的に技を使うこと自体に一種のロマンがあるのでもっとやって欲しいですね。

 

・細かいとこですが、ウバウゾーが1000キロカロリーパンチを受けて暴発させた蒸気攻撃の流れ弾を受けてダメージを食らってるナルシストルーがなんか好き(笑)。

 

・突然らんちゃんに押しかけられた高木くん、なんか無駄に赤面してましたけど、実は「らんのことが好きだからからかってた」みたいな裏設定でもあったんでしょうか。ちょっと腑に落ちないですけど、赤面の意図がよく分からず。

彼、「らんのあまりの迫力に思わず料理を食べていいと言ってしまった」感じには見えないんですよね。本当に「らんなら良い」ぽかったように見えるんです。

高木くん、らんちゃんのこと好きだったんですかね? 仮にそうだったとしたら、迷惑だよその好意の出し方。ゼロからもっかい頑張れ。