灰色の本

アニメ他の創作作品の感想とか。更新がある日は、22:00に予約投稿します。

MENU

『デジモンゴーストゲーム』第32話「オマエハ誰ダ」:感想①

デジモンゴーストゲーム』第32話「オマエハ誰ダ」の感想①です。

最近は良い回というか見やすい回が続いていたのに、今回はすべての要素の出来が悪いです。

 

長くなったので記事を①②に分割しています。 ①は今回のメインであるガンマモン・ベツモン・ヒロに関連する話です。②はそれ以外の話です。

 

■これが、肝炒りの回?

これ、公式からすると肝炒りの話……のはずなんですよね。

 

・前回の放送回から早い時点で新規のガンマモン単独ビジュアル(と言ってましたが実際はガンマモン&ベツモンのビジュアル)を公開していました。律義にガンマモン&ベツモンを構図を入れ替えて二種類も準備しています。

・(喋っていることは大したことなかったといえ)二度もヒロの担当声優からのメッセージ動画を公開していました。

・公式サイトのガンマモン画像もわざわざベツモンの画像に差し替えられていました。

・実際の作中の演出も、普段とは題字の表示演出が違ったり、アイキャッチ演出が違ったりと明らかに「普段とは意識して変えてきている」ことが分かります。

 

 

え、でも、そこまで気合を入れたフリをして、やることがこれ?

 

 

■ベツモン起用&公式ネタバレの段階でダメなうえ、工夫も見られない

間抜けな顔のデジモン(ベツモン)が敵怪異であることは公式からずっとネタバレされてたので、怖がりようがありませんでした。

そりゃあ『ゴーストゲーム』なのでどうせ「デジモンのせいなのねそうなのね」なのは分かってますけど、最初からバラさなくても良いじゃないですか。「もう1人のガンマモンは一体誰だ!?」みたいなノリされても、その間抜けヅラデジモンに決まってるじゃないですか。

 

それに、単純にベツモンの顔が間抜けすぎて怖くありません。声も明らかにガンマモンやジェリーモンに似せる気すらない別の声色(口調を真似てるだけ)なので間抜けです。ヒロ達はなんで騙されるんだ、というだけの話になります。

顔が間抜けで「なんでこんなのに騙されるの?」なのにひたすらシリアスに描く、顔は間抜けなのに映し方や話の運びがものすごく怖いというギャップがある演出はできたと思いますよ。でも、今回の話はそういう演出はしてくれません。ベツモン軍団は間抜け顔のとおりの、どこかの悪役コミカル三馬鹿キャラ達をつれてきたかのような性格と言動をしています。出来上がったアニメを見ると、悪役コミカル馬鹿キャラがコミカルにしているせいで主役格のガンマモンがガチ泣きさせられた挙句に、ヒロの認識が戻ったことで感動ガチ泣きしている、みたいな状態になっています。ついていけなくて寒いです。

 

「強制的に騙される(洗脳状態になる)ことも含めてベツモンの能力」なのでしょうが、それがはっきりとは解説されないのもモヤります。一緒にいなかったはずのルリ達までガンマモン(本物)のことが分からなくなっている描写から分かるだろ、と言われればそれまでですが。

最初にベツモンがヒロの部屋に入ってきたときに「ギューン」って感じの効果音が入っていますよね。そこで一発でベツモンに洗脳されちゃったのかと思ったら、そうでもない。その後すぐにヒロが「ガンマモン、だよな?」と訝しんでいるから余計に分かりづらいんですよね。そのまま気づいてもおかしくなかったでしょう、ってなるんですよ。しかも、その後また「ギューン」と洗脳をかける描写はないので、結局どの時点で洗脳が効き始めたのかよく分かりません。

もちろん、作中の意図としては「ベツモンの能力は時間をかけて効果を強める必要がある。最初にすぐガンマモンを追い出すのではなく何度も入れ替わっていたのは時間稼ぎのため」とかなんでしょうけど、例によってはっきりとした説明はされず、視聴者の善意の脳内補完だよりです。

それに、寮を一斉襲撃するときはそんなに手数はかけず、一気に入れ替わっていました。ガンマモンやジェリーモンを単独で狙ったときとは違って、全員を一気に入れ替わるから洗脳は必要ではなかった……という擁護は立てられますが、だとするとそもそもなんでガンマモンやジェリーモンを狙ったときは徐々に入れ替わるという手間をかけたのか不思議です。デジモン(戦える)が相手だから? 善意補完に善意補完を重ねないと補完しきれないのは良くないと思います。

 

びっくりするほど何も良くなかったです。全部悪かったです。強烈に「うっわそんなことすんの? ドン引きするわ」というポイントはなかったものの、全部の出来が悪くて寒かったです。

第25話「紅ノ饗宴」といい、力を入れた肝炒りと思われる回が「出来が悪い」のは最悪だと思います。こんなダルい回をわざわざ力入れて広報してるの、ダサすぎると思います。

ガンマモンが主役で追い詰められる回なのに、グルスガンマモンを出して話を動かすわけでもなかったというのもしょっぱいです。

 

 

デジモンを『使いまわす』ダメさをカバーする気が感じられない

今作『ゴーストゲーム』でデジモンを怪奇現象の原因、つまり『妖怪役』に仕立て上げることについては、一部のファンからは批判があったそうです。少なくとも「どうなの?」と言っている感想はいくつか見ました。

自分(中の人:グレイ)はデジモンにわかなので、そうやって新しいデジモンの見せ方を提案していくこと自体は好感を持って見ていましたし、人間の常識や倫理観に囚われないデジモンが人間にとって『天災』『害獣』のような存在になるという描き方もそれ自体は好感を持って見ています。それらの発想は良くても、最終的にできあがったアニメがあまりにデジモンに愛着が持てないとかデジモンに対峙するヒロ達のほうがあまりに酷すぎることがあるとか思ってるだけで。

 

デジモンという既にデザインが出来上がっているモンスターたちを使って、新規にデザインを起こすコストをかけなくてもトリッキーな新キャラをばんばん出していけるのは『ゴーストゲーム』の……というかデジモンシリーズ(モンスター系のシリーズもの)の強みだと思います。

一方、デメリットは、デジモンとしての既存設定に縛られることです。

 

なんなんですかね、どう見ても三流悪役なのに、設定的に強い(完全体だそうです)からってウェズンガンマモンの攻撃がろくに効かないベツモン軍団って。シリアス展開で、こんないかにも三流格下悪役ザコキャラっぽいキャラが無駄に固いからカノーヴァイスモンまで引っ張り出してこないといけないって、その設定要らないでしょ。おかげで、ただでさえ良い出番に恵まれないウェズンガンマモンがまた噛ませ役をさせられる羽目になっちゃってるし。そのくせ、カノーヴァイスモンに進化さえすれば瞬殺のザコだし。

ウェズンガンマモン、ヒロを乗せて案外に機敏に走り回ることができる&チャージが必要な大砲役などのロマン仕様を搭載してるのに、脚本側が「こいつ扱いづらいよね」って思っているせいで格好良い出番がほとんどない。不満です。

 

いや、コミカル調の他の作品なら良いんですよ? シリーズ過去作でもメタルエテモン(サル)とピノッキモン(木彫りの人形。ピノキオ)という見た目はコミカルで技もコミカルだけど強力なデジモン二体が、見た目上は子供の喧嘩(子供と大人げない大人の喧嘩)にしか見えないけど強力な技が飛び交うバトルを展開したことがありました。見た目もやることもコミカルだけど強いキャラという設定であること自体が悪いわけではありません。コミカルに処理すると決めてコミカルに徹するなら、それで良いんです。

 

が、今回のシリアス状況下でコミカルキャラに徹するのって絶対違わないですか!? 感情が追い付かないから既存のベツモンのキャラ性(種族性)を重視してコミカルにやるかガンマモンをガチ泣きさせる展開を重視してシリアスにやるかどっちかにしてくれないかなあ! 『ゴーストゲーム』のシリアスなノリで、「メタ的な『画面』にぶつかって潰れる」なんてコミカル描写されても困るんですよ!

調べたところ、ベツモンは「コールドギャグ(つまり親父ギャグってことでしょうね)」と「つっこみパンチ」しか技を持たない、コミカル専用のキャラであるようです。シリアス展開に起用すること自体が難しかったんじゃないでしょうか。逆に、それでもシリアスな流れの話に参加させたいというなら、今回は既存技を使わずに無言で攻撃してくるだけにするとか、今回専用の新規技を使わせてみるなどの柔軟な対応はできなかったのでしょうか。

 

既存シリーズのデジモンキャラを使う割には、そのデジモンキャラに愛着を持たす作劇をしてシリーズに貢献することが出来ない。

技や格付け設定などのデジモンの既存設定には振り回される。

デジモンという既存キャラを活かすどころか、足を引っ張られているような気がします。既存のデザインを使い回して低コストに抑えるのは良いですが、それは当たり前ですが『今回専用に作られていないものを商業的な事情で無理やり使う』ことなわけです。最善ではない、創作の本質的にはどちらかというと『ダメ』寄りなやり方を、『ダメ』が目立たないようにきっちりカバーするのも含めてプロ(商業作品)だと思います。その気概が全く感じられません。

 

 

■偽物のガンマモンを見抜けないヒロのパートナー力の弱さ

ヒロ、第19話「逢魔ガ時」では「真っ黒な影になっているほうが本物のヒロ」とガンマモンにあっさり見抜いてもらったのにね。しかもそのときの理屈は「パートナーだから分かるもんは分かる」だったのに、ヒロのほうはガンマモンが本物だともベツモンが偽物だとも見抜いてくれないんですね。

そりゃあ、ベツモンの能力が洗脳も込みの凶悪なものだったということだとは思いますよ。けどさあ、……プラスのご都合主義が働いてほしいときに働いてくれなくて、誤魔化しのご都合主義ばっかり働きますね。過去の第19話ではパートナーがパートナーを見抜いているんですよ? 今回だって「違う! お前はガンマモンじゃない!」とか言ってほしいじゃないですか。ヒロ&ガンマモン回で結構な割合で発動する、「気合で叫べばなんとかなる」っていう脳筋ご都合主義パワーの使いどころってこういうところじゃないんですかね。

 

そう、過去に第19話をやってしまってから今回第32話をやっているというのも問題だと思います。逆なら問題なかったと思うんですよ。逆なら、前は見抜けなかったけど今は見抜けるようになったんだねっていう絆の進行を感じられますから(厳密には見抜く側・見抜いてもらう側が逆転しているので単純比較できないのですが)。

 

『ゴーストゲーム』は話の順番もずっと悪い気がします。いえね、『ゴーストゲーム』は物語全体を貫く流れがなく単発怪奇ネタをだらだら重ねていく構成なので、先が読みづらい(先の先まで怪奇ネタを用意して放送を開始しているわけではないと思われるのでどのタイミングで何を語るか事前に決定しづらく、その回の怪奇ネタに合わせたライブ進行になってしまう)というのは同情の余地があると思います。

 

けどね、例えば今回なら、「ヒロはベツモンがガンマモンではないことに気付いたが、凶悪な洗脳能力を持っているベツモンに成すすべなく洗脳されてしまった」ということを強調する演出にすれば「第19話ではガンマモンはヒロをちゃんと見抜いていた。二人には本物と偽物を見分けられるほどの絆があるのだ」という過去描写も殺さずに進められたはずなんですよ。

脚本家さんって、作品の過去回を参照したり念頭に置いたりしながら脚本執筆作業をすることはないんですかね?

 

 

■ヒロは最後までガンマモンを見分けてはいない

よく見ると、ヒロは結局最後までガンマモンとベツモンを見分けられていないのにもため息が出ます。

ヒロがガンマモンとベツモンを見分けられるようになったのは、ベツモンがガンマモンとのチョコ大食い対決に持ち込まれて倒されたときに洗脳が解けたからなんですよね。

 

パートナー力が、低い。なんでこういうときに気合とか絆のド根性で見分けてくれないんだろう。なんでこういうとこだけ理屈を優先するんですか。

 

ガンマモンがいきなりチョコをヤケ食いし始めた理由もよく分からないので困惑します。ベツモンは勝手に「やばい! こっちがガンマモンだと証明しなきゃ!」と思って勝手にチョコを食べ始めて自滅したので助かりましたけど、知性が弱いガンマモンがそんな高等なことを狙ってチョコ大食い対決を仕掛けたとは思えません。