灰色の本

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『デジモンゴーストゲーム』カス親父がカス親父であるという話と、その影響を受けて育つヒロの話

デジモンゴーストゲーム』の北斗(ヒロの父親)がカスだよなとかそのカス親父の影響を受けて育ってるヒロのあれこれの話です。

第15話「占イノ館」までの内容を踏まえています。


※この記事は初見当時に他媒体で書いた感想を元に、後から再構築したものです。

 

 

 

■ネグレクト家庭に育つヒロ

第1話でわざわざ「親の世話をさせられてる」くさい、グレーなネグレクト環境で暮らしていると描写されたのはなんだったんだろうね。

個人的には完全にアウト判定だと思うんだけど、世間的にこーいうタイプのネグレクトって『グレー』っていう甘い扱いがされてるから合わせてそう言ってるだけですよ。世間的にはみんな、ちょっとネタが古いけど『はなちゃんのみそ汁』とか大好きだよね。子供が親の世話をさせられるよーなネグレクト虐待話、みんな大好きでしょ。「感動の親子愛~~~」ってみんな泣いてるでしょ。んで、デジモンスタッフも多分そういうの(『そういうの』と大雑把に指す)大好きなんでしょ。デジモンアニメシリーズの初代、『デジモンアドベンチャー(無印)』の頃からそのへんはそんな感じだった気がするよ。センシティブな話に触りたがるくせに扱いが雑

 

まあ、ありますよ。子供を主人公にするにあたって、親の存在が邪魔だよねっていう発想。何故か二人で海外出張してて中学生や高校生の主人公を一人で日本に残しているみたいな少年漫画って、具体的に数え上げはしませんけどなんかよくありますよね。最近は少ないかもしれませんけどとりあえず昔はよくありましたよね。

実際『自由な冒険』をさせようとすると、しばしば邪魔になるんですよね、親って。あと、『反抗期』を描写する必要性を消したいってのもあると思います。『反抗期』で親に態度が悪いところを見せたら、『親に』というところじゃなくて『態度が悪い』というところが印象に残りがちで、丁寧に上手くやらないとキャラ自体のイメージが悪くなりますからね。

 

まあそのへんまでは認めます。認めますけど、それにしても、

 

・父親はヒロを育児放棄してデジタルワールドぶらり旅をするような遊び人。

・父親が怪奇現象のような状態で生死不明の失踪しても、どうも一回も家に帰ってこなかったらしい難民支援職の母親。

 

という設定になったのは何故なんでしょうか。今、令和なんですけど。ネグレクトや被虐待児については未だに大した注目をされない世の中ですが、それでも昔に比べれば一般の『虐待』に対する意識は向上していってる時代に、これって何なんですかね。

何かやりたいことがあってこの設定なら分かるんですよ。ヒロはこういう家庭で育って心を病んでいるんです、っていうなら分かります。実際、その設定だとヒロの挙動にはむしろ納得がいくところも多いです。

「ああ、こんなネグレクト環境で育って親のお世話ばっかりさせられていたから、人の頼み事を断る発想ができなくなってしまったんだな」

めちゃくちゃ分かる。このことを本気で描いて、ヒロがカス親父との精神的離別をする(創作上で『父親殺し』と呼ばれる、父親を乗り越える展開をする)、自分自身をないがしろにしてまでなあなあで人の頼みごとを聞いてしまう自分を卒業するという展開なら、個人的には手のひら返しで褒める構えでいます。誰が批判しようと、そんな展開になったら俺はそのこと自体はとりあえず褒めちぎるよ。

 

ただ、そんな手のひら返しが起きるとは全く信用していませんが。

 

 

■『この悪さは故意です』と示されない

本当にカス親父をスタッフが『悪い』と思って故意に描いているなら、もう少し「故意です」と分かるように描いてくれたって良いんじゃないですか?

確かに、割と早い段階のどっかでヒロがカス親父のことを「クソ親父」って言っていたシーンはあったと思います。

でも「クソ親父」って、口が悪い罵倒文句ですけど、日本では本気の罵倒文句と言うより『愛すべき親父について息子がよく言うセリフ』って扱いですよね?

カス親父の北斗について、ヒロは『愛すべきダメ人間』『人間だからみんな欠点ぐらいあるさ、という範囲のダメ親父』ぐらいに思っているように見えます。

つまり、作中で現在示されている扱いだと、北斗→ヒロのネグレクト虐待は『人間だからみんな欠点ぐらいあるさ』で許されるもの。ふざけんなよ。

 

……いや、本当は、まだ今後の展開でのリカバリの余地はあると思っています。ネグレクトされて育ったヒロ本人は、カス親父のカス行為をカス行為だと認識できていない(それが当たり前だと思っている)可能性がありますからね。むしろ、そういう認識で育ってしまっていると考えるほうが自然です。

北斗はヒロの世話(家事など)をしないだけで、交流まで持たないタイプの虚無親父ではありません。暴力をふるうなどの極端で分かりやすいマイナス行為を行うタイプの親でもありません。

「だって親父は俺と遊んでくれたし、優しかったし……悪い親なんかじゃないよ? 虐待? まさかぁ、虐待っていうのは殴る蹴るとか暴言とかだろ」とヒロ本人が思い込んでしまっているとしても何も不思議ではないのです。

 

ヒロには真っ当に心配してくれる友人がいないので、「それは虐待なのではないか?」とツッコんでくれる人or口に出して言わないまでも察して注意深く見守ってくれるような人がおらず、作中でツッコミができないというのもあります。

・ルリ、コタロウ:ヒロがパシられやすい性格なのを察しているうえで、「うっかり頼みたくなっちゃうけど気をつけてあまり頼らないようにしよう、ヒロを利用しちゃわないようにしよう」ではなくて「ラッキー、積極的に利用しよう」になる連中です。まともな心配の目をヒロに向けてくれる可能性はゼロです。

・ガンマモン:赤ちゃんすぎて情緒的に役立たず。ヒロを心配するような知能がありません。

・ジェリーモン:公式でクズキャラである彼女に、そんな高度なフォローを期待するほうが間違っているので……。まあジェリーモンの察しの良さならヒロの性格には気づいているだろうけど、ルリと同様に「ラッキー、積極的に利用しよう」になるタイプだよね。

アンゴラモン:彼の常識人良識人善人保護者っぽさから言うと、ヒロの様子に注意してくれても良いんですが……彼、別に『ヒロより大人』ってわけでもないですからね。アンゴラモンさんは大人っぽいですけど、『(善良なほうの)人間の大人』のように、『自分より子供である存在を守らなくちゃいけない』みたいな感覚はないと思うんです。彼は単に自分が気に入ってるルリを守りたいのと、子供かどうかに関係なく周囲のデジモン被害やデジモンの困りごとをどうにかしたいだけです。ヒロより大人として、ヒロという子供の情緒的成長まで注意して見守ってやりたいという感覚はアンゴラモンさんには無いと思います。そこまで細かいことについてはアンゴラモンさんは興味も無いような気がします。……あと、アンゴラモンさんは頭は良いですがデジモン(人間と価値観が違う存在)なので、そこまで細かい人間の心の機微が分かるかっていうと厳しいと思います。

・ボコモン先生&バクモン:アンゴラモンさんとだいたい同じです。頭は良いですがデジモンなので、そこまで細かい人間の心の機微が分からないと思う。加えて、ボコモン先生は既にもう雑に殺されてしまった後なので、今さら何も言ってくれないでしょう。

・清司郎パイセン:案外に、心配屋で寮生の面倒見が良いこの人が気づいて親身になってくれる可能性はあったんだと思うんですけど……ヒロはこの人をパシリにしてるうえに、まともに意見を聞かないですからね。仮に先輩が心配して忠告してくれたとしても、無視するでしょう。

ヒロの友人はこんなメンツですので、作中で「それネグレクトじゃないの?」というツッコミが期待できません。

でもさ。

本当に被虐待の話をやりたいなら、『そういうツッコミができるキャラ(口に出さないとしてもヒロの様子を心配して注意深く見守るキャラ)』を最初から近くに配置しておくぐらいでも良かったんですよ。

 

自分が見ている範囲の過去のデジモンシリーズの前科を考えると、『対して考えてないだけ。この描写と設定では父親がカスになってしまっていることには気づかなかった』なだけなんでしょうね。

虐待描写(ネグレクト描写)になってしまっていることに気づいてすらないんだと思います。現時点では『意図的に描写している』と信用できる要素が薄い。

 

『意図的に描写している』と信用できるかもしれない要素、ないわけではないんですよ。

ヒロの性格、です。

 

 

■ゆるやかなセルフネグレクトを続けるヒロ

ヒロは『自分を大切にしていない』ということは散々描かれているんです。

「断るほうが面倒なのでパシられても断らない」。

「場が丸く収まるなら平気な顔で自分を囮や犠牲に差し出しに行く」。

それは、セルフネグレクト婉曲な自傷に近いと思います。

 

セルフネグレクトと言えば一般的には「自分のことがどうでもよくなり、家事すらしない」ぐらいのことを指します。ヒロはそこまでではありません。家事はちゃんとしているように見えます。

……してるよね? 一人でも家事はしてるよね? いやそう言えばメシは学食(寮でのまかない?)のようだし、掃除はルンバだし……もしかして一人になったら家事あんましてない? いやでもルンバを使う(ルンバを買ってきて、ルンバが走れるように部屋を維持する)ぐらいの気力は向けてるはずだし、ここは『家事はしている』の判定で良いと思う。

とにかく、ヒロのセルフネグレクトはそこまでではありません。一般的な意味のセルフネグレクトタではないです。ただ、「断るほうが面倒なのでパシられても断らない。断らないことで自分が疲れようとどうなろうとどうでもいい」というヒロの思考、これがセルフネグレクトチックな思考ではないのかということを言いたいのです。

あるいは学習性無力感ですね。「断るほうが面倒。断っても無駄で、どうせやらされるんだし」とヒロは諦めきっているのです。ヒロは実際、「断るほうが早いし、こいつ相手なら断れる」と思った時には即座に断りに行くムーブもしますし、目前で問題が起きていても頼まれなかったら口を出さないという態度が基本です。基本的には、諦めていて怠惰なのです。

第2話で犯罪してまでデジモンとコンタクトしようとしたり、第3話でアルファアカウントにDM送り付けてまでコンタクト取ろうとした能動性が本当に意味分からんけど。

 

多分このセルフネグレクト・学習性無力感を拗らせた原因はやはりカス親父(と不在の母親)です。

恐らくですがヒロは、

「遊び惚けている父親のかわりに家事をやらなくては仕方がない。本当は嫌だが、断ろうとどうしようと結局はやらないとどうにもならないので、反抗する意味がないなら最初から大人しく家事をするほうがマシ」

という状態でずっと育っているのではないでしょうか。

 

いや、家事以外のこともそんな感じだったのではないかという気がします。

あのカス親父、ふざけるのは好きなんですよね。家事はずっとしてないと思われるけど、家にはずっといるし、ヒロをからかってふざけるのは大好き。となると、

「父親はヒマそうにふざけてからかってくる。やめてほしいしそんなことするヒマがあるなら家事ぐらいしてほしいけど、言ってもどうしようもないのでもう諦めている」

と、ずっとこういう状態だったのではないでしょうか。

 

北斗は、作中では(回想シーンはちょっとありますが)録画でしか登場していません。今どきzoomなどのリアルタイムチャットだって可能だろうに、しかもゴーストゲームの時間軸は今どきどころか近未来なのに、録画です。一方的に送り付けるもので、ヒロの反応を確認するものではありません。あのカス親父は自分の近況は自慢げに送り付けてきても、ヒロが今元気に暮らしているか、旅に出ている自分のことをどう思っているかということには全く興味がありません

北斗の失踪日にヒロは中学に上がって、そこから半年経っているのに、ヒロが中学で上手くやっているかということは全く気になっていないらしいのです。

ていうか、あんなふうにろくに連絡もよこさず呑気に旅をしているところを見ると、「ヒロは今日から中学生になるから、もう傍にいなくてもいいだろ! よーし今日から自由だー!」で自分から無言失踪した可能性もある

 

それは昔からずっとそんな感じだったのではないのでしょうか。

カス親父の北斗は、ヒロと一緒に暮らしているときでさえ、実際にヒロが何を思っているかということを気にしていなかったのではないでしょうか。

ヒロを相手としてふざけてからかってはいても、それは一対一の遊び相手としてではなく『自分のおふざけに反応するオモチャ』のような扱いで、ヒロが何を感じているかには興味がなかったのではないでしょうか。

 

だから、自分の感情や意見を蔑ろにされ続けたヒロは、自分の感情や自分の都合を前面に主張することを諦めるようになった。自分にもそういう感情や都合があるということ自体を忘れがちになるような性格に育った。

これで、パシラレ性格も、いまいち何をしたい人で何を目的にしているか分からないのも、感情が読めないのも全部筋が通ってしまいます。

 

ごめん、ここまで語っておいてなんだけど、

脚本と演出がヘタなだけだと思うよ。

 

ヘタなだけでしょうよこれ。

仮に本気でこんな設定を考えていたとしても、だとしたら『本気でこういう設定なんですよ。北斗はネグレクトカス親父だし、主人公があきらめがちの怠惰なパシラレ性格になったのはカス親父のせいで心を病んでいるからなんですよ』という説明がずっと入らないのは脚本がヘタですよ。

 

脚本と演出がヘタでヒロの性格や望みがよく分からんっていうところに、うっかり『ネグレクトするカス親父』っていう設定が生えてたせいで怪しい幻覚が見えるだけだと思うよ。

 

ああパシラレ設定もネグレクト設定も存在する意味が分からん。

ネグレクト設定は「スタッフはこう描くとネグレクトになるって分からなかったんだろうな~アハハ~マジでカスだな?」と思える余地があるんです。

だが、パシラレ設定はスタッフが分かってて故意で描いてるぽいからほんとに意味が分からん。なんでそこまで非積極的なキャラにする必要があったの? 逆に、「何もしてないのにホラー現象にひたすら巻き込まれちゃうキャラなんです~~~ピエン」なら、犯罪行為までして事件に首を突っ込むキャラなのはなんなんだよ。

わけがわかんねえ。